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葵にとっては、どういうことなのかすぐに理解できることではなかった。
「嫉妬させたかったって、どういうこと?」
「ねぇ、覚えてないの? 私……葵くんに何度も問い詰めたことがあったよね? 『本当に愛されてるのかどうか、わからない』って……」
微かに、葵の中にそんな記憶は薄く蘇ってくる。
光里と付き合い初めてしばらくした頃、大学からコンテストに推薦され、その制作に追われて恋愛どころではなくなっていた自分の記憶。そして、そんな自分とは逆にひたすら自分のことを求めていた光里のことも。
「私が他の男の人と仲良くしてても、葵くんは嫉妬するどころか……見向きもしてくれなかった。たまに会えばエッチばっかりで、私……葵くんの彼女なのかなんなのかわからなくなっちゃったの! そのこと、問い詰めたら……葵くん、こう言ったんだよ。『ごめん、正直そういうの重たいんだ』って」
思った以上に、過去の自分が発した言葉の記憶なんてものは時が経てば経つほど薄れていく。そう、たとえそれが相手を傷つけるような言葉だったとしても。
でも、当時の自分の環境や心境は鮮明に覚えていた葵は……
「マジで……俺、そんなこと言ったんだ……」
そうため息をついて、頭を抱えるので精一杯だった。
そして過去の記憶が徐々に濃さを増してきた頃、もう歯止めの効かなくなった光里からは次々とそれらが語られ始めた。
「だから……最後にね、試してみたの。『他に好きな人ができた』って言ったら、葵くんは嫉妬してまた私の方に向いてくれるんじゃないかって」
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