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——真昼間のオフィス内。
誰もいない、薄暗い会議室で仕事も忘れて抱き合い、キスに夢中の男女が二人。
「ん……っダメだってば桐矢、誰か来ちゃったらどうすんの……!」
「お前が他の男と楽しそうにしゃべってんのが悪いんだよっ」
さてさて、ご覧の通り、IT広告代理会社に勤めるOLの藤崎綾乃と……
同社勤務のデザイナーで超イケメンモテ男の桐矢葵の二人は現在、周りには内緒で超甘々オフィス恋愛中。
犬猿の仲だった二人がついに付き合うようになったものの、ラブラブのわりには社内ではいまだに秘密の関係。
その理由は、後ほど明らかになるのである。
「楽しそうって……仕事の話してただけだってば」
「お前はそうでも、アイツはそれだけじゃないかもしれないじゃん」
面白くなさそうに拗ねている葵のことを、綾乃はいつもこうして諭すのだ。
「そんなことないって! もしかして……桐矢、ヤキモチ妬いてるのぉ?」
「……俺がぁ? そんなわけないだろ、俺はアイツが職場に私情を持ち込んでることに対してだな……ゴニョゴニョ」
「じゃあ、職場で私とこんなイケナイことしてるあんたは『私情』じゃないの?」
ごもっともな意見を突きつけられた葵が一瞬口を紡いで、不機嫌そうに綾乃のすぐ後ろの壁に手をついた。
「……俺とお前は別っ。これ以上言うってんなら、その生意気なクチ塞いでやるから」
「ま、またそうやって都合いいことばっか言って……ずるいっ」
「それと……『桐矢』じゃないだろ? 『葵』ってちゃんと呼んで……綾乃」
——こんなにも至近距離に追い詰められてその綺麗な顔で迫られると、いよいよ綾乃はキスを拒めない。
「あ、葵……っ」
「ヤバ、余計に歯止めきかなくなっちゃったかも」
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