第5話 未練という名の呪縛

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 ——その日の夜。  仕事を終えたばかりの光里は、すっかり夜の賑わいに染まった繁華街を走り抜けていた。  息を切らし、はやる胸を押さえ、仕事の疲れなどものともしない足取りで……。 「あ、ねぇねぇキミ! イケメン好きそうな顔してるねー!! どう?! うちのお店でイケメンたちと——」  人混みの中、声をかけてくる派手なホストの男になど見向きもせず、その足はある場所だけを目指していた。  ただひたすら、ひたむきに——。 「——葵くんっ!」  そこは少し敷居の高そうな、日本料理店。  急いで身だしなみを整えて、何度か深呼吸をしてから個室の引き戸を開いた。その座敷内で光里を待っていたのは、掘り炬燵に座って水の入ったグラスを口に傾ける葵の姿だった。 「お疲れっ」  そう言って笑って出迎えてくれたのは、光里が何年も追いかけ、何度も何度も恋焦がれてきた「忘れられない男」その人なのだ。 「葵くんの方から誘ってくれるなんて……私、嬉しくって残業断ってきちゃった!」  いそいそと中に入り、その向かいの席へと腰を下ろした。そして落ち着きのない視線を上げた先には、光里を見つめる涼やかな優しい笑顔。 「そっか……あ、ごめんね? こんな個室の店なんかに呼んじゃってさ」  ……その顔と声を真近に感じるだけで、いちいち胸がときめいてしまう。 「そ、そういえば……そうだね」  周りに誰も存在しない、想い人と二人だけの狭い空間。  緊張で声が少し震えてしまう光里に、葵は持っていたグラスを静かに置いて話し始める。 「光里が入社してきて以来、なかなか二人でゆっくり話せる機会もなかったじゃん? だから二人きりになれる場所を選んだんだけど……ダメだった?」  そう言って試すような目に見つめられ、胸の鼓動がいよいよ高鳴り始めた。 「……ううん、そんなことないっ……!」  ドキドキドキドキ……
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