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「そう? ならよかった。こうして光里と直接二人で会うのってほんと……何年ぶりだろうな」
「ほんとだね……」
「付き合ってた頃と全然変わってないみたいで安心したよ」
「葵くんも……相変わらず、素敵だよ」
ただ、ひたすら葵の口から出てくる言葉を噛み締める光里。そんな数秒の間の後、光里は思い出したかのように目を泳がせて言った。
「あっ……今夜は、藤崎さんとは一緒じゃなかったんだね? ほら、いつも時間が合えば一緒に帰ってたみたいだし……っ」
そんな質問にも、葵は淡々と返すのだ。
「ああ、アイツならなんでか知らないけど午後に早退したみたいだからさ」
そしてホッとすると光里は顎元に握りしめた手を添え、伏目がちに視線を落とした。
「そういえば、午後から姿が見えないなぁとは思ってたけど……体調でも悪いのかな? 私、心配だな……」
そんな光里を、机に頬杖をつきながら葵は黙って眺める。
「でも、本当にいいのかな? 藤崎さんがそんな時にこんなふうに二人きりで会ってるなんて……。それも私たち、元恋人同士なのに……藤崎さんに申し訳なく思っちゃうな」
そう言って弱々しく俯いた光里の前で、葵はフッ、と鼻で小さく笑ってから明るく言い返す。
「へぇ……綾乃のこと、気遣ってくれてるんだ? ……でもいいよ、そんなの気にしなくて」
そのあまりにもサッパリとした雰囲気になんだか拍子抜けした光里は、つい確かめたくなってしまうのだ。
目の前で、長い睫毛を揺らして微笑む美しい男の本心を。
「そう……なの? だって葵くん、昨日の歓迎会の時も藤崎さんが男の人に絡まれた時にすっごく怒ったじゃないっ? なりふり構わずって感じで……。だから、私……」
そこまで言って言葉に詰まってしまった光里に、さらに予想外な反応は返ってきた。
「ああ……昨夜のアレか。酒も入ってたし、ほんの余興みたいなつもりだったんだけどな」
「余興?」
「うん。けっこう盛り上がったと思わない? あの場にお局様がいたらもっと面白そうだったんだけどなぁ」
そんなことをニコニコしながら言われても、当然腑には落ちない。
「な、なんだぁ……そう、だったの……っ」
そんな戸惑いを隠せない光里に、葵は間を置かずに言った。
「だから……さ、言ってもいいよな?」
「えっ?」
ふと視線を感じ見つめ返した先には、さっきまでとはまるで違う、少しだけ照れ臭そうに目を逸らす葵の顔があった。
「なんつーか、その、俺……」
「……なに?」
次の言葉を待つ光里を横目で見つめ、葵は口元を手で覆ってその続きを口にする。
「何年かぶりに光里と偶然再会できて、ぶっちゃけ俺……ときめいちゃったっていうか……」
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