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「………。」
「でも、これだけは信じて欲しいんだ。俺、光里のこと……ちゃんと好きだったよ」
黙ったまま俯いていた光里だったが、葵の優しい声色にパッとその顔を上げた。
「本当……?」
「うん。可愛いと思ったから告白も嬉しかったし、もちろん何があっても光里以外の女と関係持ったりなんてしなかった。ただ俺がバカで鈍感だっただけで、光里は何も悪くないよ」
光里の表情が一気に明るくなった。
「葵くんっ……! それじゃあ……私がしたこと、許してくれるんだね……?!」
「うん」
過去の過ちが昇華していく……
そう信じてまた涙が視界を滲ませようとした、その時。
「——でも、綾乃を傷つけるのだけは許さない」
そう発した口元には、さっきまで光里を撫でてくれていた甘い優しさなど存在していなかった。光里の中の、時計が止まった瞬間だった。
「葵、くん……?」
「なんのことかわかってるんだろ?」
静かな感情は、恐ろしいほどにその淡々とした声を研ぎ澄まさせる。
「そ、それはっ……」
ドクン、ドクン……と、期待でも高揚でもないものが心臓を圧迫し始める。そんな心中穏やかでない光里から目を離さなかった葵が、初めて目を逸らした。
「俺、アイツのあんな泣き顔見たのって初めてなんだよな。正直……キツかった」
「あ……!!」
焦りと不安、そして恐怖が、自分を守るための言い訳を探しだす。
「で、でも……私っ! そんなことできちゃうぐらいに葵くんのことが——」
しかし、そんな言い訳すら許さない明るい声が、すべてを遮断した。
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