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 夜空に煌めく花火が咲くと、隣に居る上條の眼鏡にそれがキラキラと反射して、普段とは違ってよく見えるその目元に、舞琴は時折目を奪われながら花火を見上げた。  一万発の花火はあっという間に打ち上がり、花火大会が終わると、周りの人だかりは徐々に方々へ散っていく。 「綺麗だったね。佐倉さん楽しめた?」 「はい!上條先輩は楽しめましたか」 「うん楽しかったよ。一緒に来られて良かったね」  すぐ隣で無邪気に笑う上條に、舞琴の胸はギュッと詰まる。  まさか前髪が上がっているだけで、こんなにもカッコいい顔立ちだったなんて。  ただでさえ、もっさりヘアのイケてない姿でも、それが上條なだけでドキドキするほど大好きなのに、心臓がいくつあっても足りないじゃないかと、舞琴は心の中で叫ぶ。 「どうしたの」 「いえ、先輩がカッコ良すぎて……」 「なにそれ。マジ照れるしやめてよ」  二人して頬を赤らめて俯くと、シートについていた手が触れて、どちらとなくビクッと体が震える。  そのまま無言のまま、ゆっくりと指先だけが悪戯に触れ合うと、ざわざわとしていた人影もまばらになってくる。 「とりあえず、そろそろ片付けようか」 「そう、ですね」  シートから立ち上がると、まとめたゴミは舞琴が持って、上條は器用にレジャーシートを畳むと、トートバッグにそれを放り込む。 「また来られたらいいね」 「そうですね。来たいです」  どちらからともなく手を繋ぐと、ゆっくりと歩きながら、この時間がもっと続けば良いのにと、舞琴はしんみりした気持ちになっていた。 「あのさ、佐倉さん」 「なんですか」 「まだ時間大丈夫なら、もう少し一緒に居ない?」 「嬉しいです」  繋いだ手をギュッと握って上條を見上げると、舞琴は思わずニヤけた笑顔になる。  けれどそれは上條も同じのようで、恥ずかしそうに一度は顔を背けた後で、改めて舞琴の顔を覗き込んで笑顔を見せた。  駅前まで引き返すと、花火大会の名残りでだいぶ混雑していて、上條は困った顔をして、これだとどこに行っても人が溢れてそうだと呟いた。  公園でも構わないと舞琴が答えると、上條は少し考えるそぶりを見せてから、嫌じゃなければと話を続けた。 「うちに来る?帰りは送るから大丈夫だよ」 「え、上條先輩のお家ですか」 「うん。バスだからちょっと時間は掛かるけど」 「でも、こんな遅くに急に伺ったら非常識だし、ご迷惑じゃないですか?」 「まだ20時過ぎだし大丈夫だよ。それに佐倉さんと一緒なのは言ってあるし。うちでもいいかな」 「なんか緊張しますけど、ご迷惑じゃないなら」 「大丈夫だってば」  行こうかと手を引かれるまま、バスに乗り込んで上條の家に向かうと、出迎えてくれた上條の両親との挨拶もそこそこに、初めて彼氏の部屋にお邪魔することになってしまった。 「ごめんね。あんまり片付いてないけど」 「お邪魔します」 「うん、どうぞ」  舞琴の部屋とは違って、全体的に落ち着いた色味の家具が多く、部屋にテレビやステレオがあって、よく話に出てくる通り、ゲーム機がいくつもテレビに繋がっている。 「トイレに行くなら、2階のその奥にもあるから、そこを使ってね。俺は飲み物とお菓子持ってくるから、適当に寛いでて」 「ありがとうございます。じゃあお手洗いお借りします」  部屋を離れた上條を見送ると、舞琴はトイレを済ませて部屋に戻る。  改めて部屋の中を見渡すと、本棚には色んな小説やマンガが沢山並んでいて、パソコンが置かれた机の上には、大学の教材なのか分厚い資料のような本が立て掛けて置かれている。  部屋の中央に配置された小さなガラステーブルの脇に座ると、部屋中から上條の匂いがするようで、舞琴はドキドキする気持ちを抑えるのに精一杯になる。 「足疲れない?ベッドしか椅子代わりがないけど、楽ならそっちに座っても良いよ」  お菓子と飲み物を持った上條が部屋に戻ってくると、それをテーブルに置きながら、リモコンを使ってテレビのスイッチを入れる。 「大丈夫です。ありがとうございます」  お菓子の袋を開ける上條に返事をすると、ジュースを注ぐのを手伝ってコップを手に取る。 「前髪のこと、早速イジられたよ」 「ああ、ご両親にですか」 「ついにオシャレにまで目覚めたって、彼女が出来たらそこまで変わるのかって」 「ふふ。うちも今日は浴衣を着せてもらう時に、散々揶揄われました」  入れたばかりのジュースで乾杯すると、上條は思い出したように家に電話しといてねと舞琴の顔を見た。 「花火大会が終わってすぐ帰ると思ってるだろうし、連絡しとかないと心配掛けるから」 「じゃあちょっと電話しますね」  母親に連絡すると案の定揶揄われたが、遅くならないように約束してすぐに電話を切った。
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