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 上條の部屋で二人きりになって、舞琴も最初は緊張したが、オススメの音楽を聞いたり、上條が普段遊んでいるゲームで遊んでみると、意外とどれも楽しくていつの間にか緊張はほぐれた。  それに飽きると、上條の小学校からの卒業アルバムを見させて貰ったりして、お菓子を食べながら話をしていると、あっという間に時間は過ぎた。 「ああ。もうこんな時間になっちゃったね」 「本当ですね」 「あのさ、佐倉さん。お願いというか、言っておきたいことがあるんだけど、良いかな」  上條がいつになく真剣な顔をするので、舞琴はドキドキして驚きながらも、大丈夫ですと答えて話の続きを待つ。 「どうかしましたか」 「うん、あのさ。そろそろ俺相手に敬語やめない?あと先輩っていうのも」 「え?」 「もう知り合ってだいぶ経つし、もう少し楽にしてくれて大丈夫だよ」 「でも上條先輩は先輩ですし」 「言うと思った」  くしゃっとした笑顔で笑う上條を見ると、舞琴の心はキュンと跳ねる。仕草一つでこんなにもドキドキさせてくる上條を見ていると、舞琴の心臓はいくつあっても足りない気がする。  だけど舞琴だってもっと仲良くなりたいと思っているし、言うなら今だと勇気を振り絞って、上條の名前を声に出して呼んでみた。 「煌耶、くん?」 「……え」 「じゃあ、煌耶くんって呼んでも良いですか」 「もちろん。うわ、でもこれ照れる」 「じゃあ私も。佐倉さんじゃなくて、下の名前でお願いします」 「舞琴ちゃん」 「はい。でも、うわ。これは想像以上に照れますね」 「だよね」  二人で顔を赤らめて俯くと、照れ臭い空気が流れてから、堪え切れずに吹き出して笑う。  少しぬるくなったジュースを飲み干すと、散らかしてしまった部屋を二人で片付けて、出しっぱなしのCDやゲームソフトも棚に戻す。 「じゃあ舞琴ちゃん。そろそろ親御さんが心配するだろうから送っていくよ」 「バス停までで大丈夫で、大丈夫だよ。え、と……煌耶くん」 「ぎこちないね」  可笑しそうに肩を揺らして煌耶が笑うのが可愛らしくて、舞琴の心臓はまたドキドキと早鐘を打つ。  突然顔を真っ赤にした舞琴を不思議そうに見つめながら、ゆっくり慣れていこうと呟くと、煌耶はその場で立ち上がって、車で送るからと親から借りた車の鍵を見せた。 「これでも俺、運転上手いんだよ」 「上……煌耶くん、免許持ってた、の?」 「舞琴ちゃん、そのカタコトなのウケる」 「いや、まだ慣れなくて」  恥ずかしくて煌耶の顔もまともに見られずに呟くと、言い続けて慣れるしかないよねと、楽しそうに笑う声が聞こえる。  今までずっとして来たことを、急に変えるのは難しい。だけど煌耶との距離が更に縮まった気がして、舞琴は充分嬉しかった。 「じゃあとりあえず、これ以上遅くなるといけないから、そろそろ出ようか」 「はい!」  思ったよりも遅くまでお邪魔することになったので、煌耶の両親に挨拶を済ませる。  またいつでも遊びに来てねと笑顔を浮かべ、運転はくれぐれも気を付けるようにと見送られて、二人はようやく車に乗り込んだ。  家族しか乗せたことがないからと、最初のうちは緊張した様子だった煌耶だが、すぐに慣れた様子で運転すると、僅かな時間のドライブを楽しむ。 「今度は、車で少し遠くまで出掛けても楽しいだろうね」 「そうだね。親御さんの許可が出たらだね」  車内でたわいない会話をしているうちに、舞琴の緊張もほぐれて、だいぶ敬語を抜いて話せるようになった。  そのうち車の窓から見慣れた景色が見えてきて、そろそろお別れの時間が近付いて来た実感が湧いて、舞琴は少し寂しい気持ちになって、煌耶に気付かれないように静かに俯いた。 「もう着いちゃったね」 「車だと近いよね。今日はわざわざ送ってくれてありがとう煌耶くん。じゃあ、また次のシフトの時だね」 「うん。夏休み中にまた時間が取れたら遊ぼう」 「ね。遊ぼう。学校が始まったら、なかなか時間もないもんね」  なんとなくまだ離れ難くて、シートベルトは外したのに車から出られないでいる舞琴に気付いているのか、煌耶も言葉を探しながらまだ会話を続けようとする。 「帰るのが寂しいって思ってるの、俺だけかな」 「そんなことないよ。私もだよ」  舞琴がそう呟いて煌耶を見ると、煌耶は困ったように笑ってから舞琴の顔に手を伸ばして、そっと頬を撫でた。 「またデートしようね」 「うん」  どちらからともなく顔を近付けると、唇が触れ合うだけのキスをした。 「緊張するね」 「ね、ドキドキするね」  顔を見合わせてクスッと笑い合うと、舞琴はようやくドアに手を掛けて車から降りる。 「おばさんによろしくね。遅くなってごめんって言っといて」 「うん。煌耶くんも気を付けて帰ってね」  そう言って車のドアを閉めると、帰っていく煌耶の車を見送ってから、舞琴はようやく家の中に入った。
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