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 よく晴れた旅行当日。  レンタカーのオレンジのSUVで舞琴の家まで迎えに来た煌耶は、一度車を降りて舞琴の母親に挨拶を済ませると、舞琴を助手席に乗せてから車に乗り込んだ。 「晴れて良かったね舞琴。じゃあ行こうか」 「うん。お母さんと一緒にお弁当作ったから、お昼はそれを食べようね」  窓の外で少し心配そうな顔をする母親に手を振ると、ゆっくりと車は走り出した。  片道2時間のドライブは、短大に進むことに決めた舞琴の話を中心に、最近のバイト先での皆とのやり取りを面白おかしく話してるうちに、すぐに目的地に着くほど楽しく過ごした。  ホテルのチェックインを済ませて、すぐに海に行く支度をすると、ホテルからは徒歩で海に向かう。  既にホテルの敷地から見えていた海が近付くと、一気に潮の香りが立ち込めて、夏休みらしく人で溢れかえったビーチに到着した。 「分かってはいたけど凄い人だね」 「座る場所、確保できるかな」  手を繋いでビーチを歩くと、ひとまずシートを広げられそうな場所を探す。  舞琴も煌耶も、水着の上に服を着て来たので、シートを広げて荷物を置くと、服を脱いで水着姿になった。  煌耶は膝丈のハーフパンツ型のゆったりした水着で、舞琴が着ているアプリコットオレンジのビキニタイプの水着は、足元を隠す長めのパレオがついた、ホルターネックの少し大人っぽいデザインだ。 「ヤバい」 「なにが?」 「どんなの買ったのか知ってたのに、舞琴の水着姿、超可愛い」 「なにそれ」  恥ずかしさを誤魔化して舞琴が笑って煌耶の肩を叩くと、顔が赤くなったねと揶揄いながら、持ってきた麦わら帽子を舞琴に被せて煌耶が楽しそうに笑う。 「そんなことより、これだけ天気が良いと、すぐに日焼けしちゃいそうだね」 「あ。俺日焼け止め塗ってない」 「私も。でも持ってきたから大丈夫だよ」  カバンから日焼け止めを取り出すと、受け取った煌耶が体に塗り始めてから、困ったように舞琴を見つめた。 「ごめん舞琴、背中に塗ってもらっても良いかな」  煌耶は少し照れたように小さな声で呟いて、不安そうに舞琴の顔を覗き込んだ。 「いいよ。貸して」  煌耶の手から日焼け止めを受け取ると、手に出したクリームを背中に広げて、思ったよりも逞しい引き締まった煌耶の体に、今更ながら直接触っていることに気が付いて、舞琴の心臓はドキドキ暴れ出した。 「塗れたよ」  パチンと背中を叩いて、なんとかドキドキを誤魔化すと、煌耶も恥ずかしかったらしく、少し赤くなった顔で短くありがとうと呟いた。 「舞琴も日焼け止め塗っとかないと」 「あ、私も背中……お願いしてもいいかな」 「……うん」  気不味くて恥ずかしい空気が漂う中、遠慮がちに舞琴の背中に煌耶の大きな掌が触れる。  多分時間にしたら僅かな間のことだったが、舞琴は口から心臓が飛び出てしまうのではないかと思うくらい緊張して、ギュッと目を閉じて煌耶が日焼け止めを塗り終わるのを待った。 「全体に塗れたよ。顔も塗り忘れないようにね」  少しぶっきらぼうに煌耶が呟くと、舞琴は手元に戻ってきた日焼け止めで、肩や腕、足や胸元にクリームを広げて、隣で顔に日焼け止めを塗る煌耶の顔を盗み見た。  やっぱり煌耶も照れているのか、まだ日焼けするには早いのに顔を真っ赤にしてる姿が可愛くて、舞琴の心はキュンと跳ねた。  貴重品は煌耶が首から下げた、防水ホルダーに入れたスマホくらいしか持っていない。  それでも荷物を置いて遊ぶことに、最初のうちは抵抗もあった。  けれど隣でシートを広げた家族連れが声を掛けてくれて、誰かしらシートのそばに居るからと、荷物を見ていてくれる申し出に甘えることにして、目一杯海を楽しんだ。  ひとしきり遊んでお腹がなった頃、舞琴にシートで休んでるように声を掛けると、煌耶は飲み物を買いに海の家の方に向かって行った。  日差しが強いので、家から持ってきたお弁当の様子が気になったが、保冷剤を沢山入れてきたのが良かったのか、傷んだりしてる様子がなくて、舞琴はホッと胸を撫で下ろした。 「お待たせ」  ようやく戻ってきた煌耶は、隣で荷物番をしてくれていた家族にビールを差し入れたらしく、そのお礼に貰ったらしいお菓子を手に持っていた。  手作りして来たお弁当を一緒に食べて、午後も隣の家族に甘える形で海を満喫すると、さすがに疲れて15時を過ぎた頃には海から上がって、ビーチで飲み物を飲んで休憩することにした。 「トイレってどこにあるのかな」 「海の家の方にあったよ。俺も行っとこうかな」  隣の家族がまだ居たので荷物をお願いすると、舞琴と煌耶は手を繋いで海の家に向かう。  トイレを済ませてビーチに出ると、煌耶の姿が見当たらなくて、舞琴はとりあえずその場に待機して煌耶が来るのを待つことにした。 「あの、ちょっと良いですか」 「はい?」  不意に声を掛けられて振り返ると、綺麗な顔をした女性がそこに立っていた。 「今日は一人で海に?」 「いえ、彼氏と一緒に来てます。あの、私になにか?」 「ごめんなさい。私こういう者です。読モとか興味ないかしら」  ビーチにそぐわない名刺を差し出すと、目の前の女性はティーン向け雑誌の編集者らしく、ビーチにスカウトをしに来ているらしかった。 「ごめんなさい。私そういうのは疎いので」 「貴方凄く可愛いから、一回だけでも写真撮らせて貰えないかな」  断ってもなおも食い付いてくる女性に困惑していると、海の家で隣の家族用にお礼のビールやジュースを買って来た煌耶がようやく迎えに来た。 「一人にしてごめんね」  女性に怪訝な顔を向けると、まだなにか言足りなさそうな彼女を無視して、煌耶は舞琴の手を握り元いた場所に引き返す。 「舞琴、あの女の人なんだったの」 「なんか雑誌の編集の人だって。名刺渡された」 「本物なのかな。それにしても、なにも言わないでそばから離れちゃってごめんね」 「いいよ。煌耶のことだから、多分お礼を買いに行ってるんだろうとは思ってたから」  そうして隣の家族連れにお礼をして挨拶すると、服を羽織って着替えを済ませ、荷物をまとめてホテルに戻る支度を整えた。
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