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夏休みは泊まりの海水浴以外に、一年ぶりの花火大会や水族館や遊園地に足を運んで、使える時間をデートに注ぎ込んで目一杯楽しんだ。
夏休みの間に舞琴と煌耶は、少し大人っぽいキスを覚えたが、今はお互いの親に信頼されてる意味を認識して、一線を越えることは決してしないで過ごそうと約束した。
二学期が始まって、本格的に進路を決めた舞琴は、少しバイトの量を減らして、推薦入学の対策で小論文の課題に取り組んでいた。
「舞琴。次の俺の休みの日も、家に勉強しに来る?」
「どうしようかな。受験の方は小論文だけで行けるけど、学校の中間テストは普通にあるし、また煌耶に勉強教えて欲しいかな」
煌耶の部屋で小さなテーブルにテキストを広げて、ノートにペンを走らせると、まだ手を付けていなかったケーキをようやく口に運ぶ。
「俺もレポートやらなきゃいけないし、そんなにしっかりは見てあげられないけど、一緒に勉強するか」
最近ずっと目がゴロゴロするらしく、煌耶は眼鏡を掛けた姿でにっこり微笑むと、舞琴は出会った頃を思い出して、眼鏡姿の煌耶にキュンとときめいてしまう。
「煌耶」
「なに?どうかした?」
「たまには眼鏡掛けてね」
「なんだよ。やっぱりもっさりな方が好きなのかな」
「かもね」
煌耶に向かって意地悪く笑うと、舞琴は紅茶を飲んでから、再びペンを握って勉強を再開する。
雑談しながら勉強をして、区切りのいいところまで片付けると、ちょうどそのタイミングで煌耶の母親が夕飯を食べて行けと声を掛けに来た。
舞琴の母親は大学病院で看護師長を務めていて、いまだに夜勤で夜中に不在なことも多い。だから正直言うと、煌耶の母親の気遣いはありがたい。
最近は親同士も連絡し合う間柄で、最初は舞琴の母親も気を遣って胃を痛めていたが、舞琴の母親が休みや早番の時に煌耶が遊びに来ることで、一方的なやり取りが解消されて納得しているらしい。
そうして煌耶の家で夕飯をご馳走になると、食後に少しだけゲームして遊んで、散らかした部屋を片付けてから家に帰る支度をした。
「ちょっと遠回りしてドライブする?」
「おばさんたちも心配するから、ドライブは今度でいいよ。家に送ってくれるだけでもありがたいから」
「そっか。じゃあ真っ直ぐ家だね」
「うん。お願いします」
帰り際に煌耶の母親に呼び止められて、並ばないと買えないらしい、美味しいと評判のプリンをお母さんへのお土産と言って渡された。
それだけだとこちらが気を遣うのも分かっている煌耶の母親は、舞琴の母親が勤める病院近くの老舗のお煎餅が食べたいと、母宛ての伝語を預けてにっこり微笑む。
そうして遠慮なくプリンを受け取ると、また来週お邪魔しますと挨拶を済ませて家を出た。
「おばさん、今日も夜勤なの?」
「いや今日は日勤だけど、帰りが夜中になるかもって言ってた」
「ならもう帰ってるかな。体壊さないといいね」
「どうだろうね。最近ずっと忙しいから、私もちょっと心配してる」
そう答えて少しだけ不安な顔をすると、信号で止まったタイミングで、煌耶は左手を伸ばして舞琴の頭をそっと撫でた。
舞琴の家に着くと、母親が既に帰宅しているらしく家の電気がついていた。
「今日は疲れてるだろうし、おばさんによろしく言っておいてね」
「うん。煌耶も気を付けて帰ってね」
煌耶は車から降りずにそう言って舞琴を見送ると、舞琴が家に入るのを確認してから車を走らせて帰っていった。
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