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「そうだ舞琴、おばさんにちゃんと連絡した?」 「うん。でもお母さん今日は夜勤だから」  煌耶の部屋で今日有ったことと、村上から聞いた話を伝えると、さすがに見知った三上がしたこととは言え、煌耶も顔を顰めて面倒だなと呟いた。 「三上さんの話、村上さんは心配で教えてくれただけだから、私に話したからって変に絡まないであげてね」 「分かってる。それについては舞琴に心配掛けたくなくて、黙っててごめんね」 「それは別にいいよ。それより困ったね」  問題なのは、三上がわざと引っ掻き回して面白がってる節があることだ。  煌耶はまだキッチンなので、店に押し掛けられても会わないなどの対応が出来るが、舞琴の場合はそれをされてしまうと、対応せざるを得なくなってしまう。 「あいつマジでなんなの」 「ねえ煌耶。三上さんて、そういうの面白がるような人だったっけ」 「いや、自分が女の子追っ掛け回すだけで、他人の恋愛とかには興味ないと思ってたけどね」 「だよね。それなのに私たち二人にわざわざ、人を紹介しようとしたのって、なんでなんだろうね」 「電話しても埒が明かないだろうし、今度シフト被った時に直接聞くしかないかな」  煌耶はそう答えると、とりあえず今日のうちに絡まれなくてよかったと呟いて、舞琴の頭を撫でた。  しばらくは気持ちがザワザワして落ち着かなかったが、煌耶と話していると徐々に心も落ち着いて、舞琴はようやく大きく息をすると、明日以降も三上と顔を合わせるのが憂鬱になる。 「しばらくシフト合わせようか?」 「大丈夫。ただお客さんとして来られたら凄い迷惑だと思って」 「俺はキッチンだから難しいけど、それこそ林田さんとか松尾さんなら、ほとんど毎日シフト入ってるし、代わりに対応してもらいなよ」 「そうだね。もしお客さんとして来られたらそうする」  答えながら隣に座る煌耶にもたれ掛かると、煌耶も同じようにもたれて頭を寄せて、面倒臭いねと二人で声を揃えて溜め息を吐き出す。  詳しくは聞いてみないと分からないことだが、どうも三上がしていることは、裏に何かがある気がして、心の中にしこりが残る。 「そう言えば、舞琴が短大受かったお祝いどうしようか」 「それは入学してからで良いよ」 「でもしばらく勉強も頑張ってたし、期末テスト終わったらクリスマスにどこか出掛けてみない?」 「今年はスタッフが足りないから、クリスマスに休みは取れないと思うよ」 「ああ、そうだったね」  もたれていた体を元に戻すと、舞琴は立ち上がって大きく伸びをする。 「ヤバい。もうこんな時間なんだね。そろそろ帰らないと」 「明日土曜だし泊まっていけば?」  普段滅多にそんなことは言わないのに、煌耶が突然そう言い出して舞琴はびっくりする。 「そんな訳にいかないよ」 「でもおばさん今日も夜勤なんでしょ。一人の家に帰すのは、やっぱり心配だよ」 「気持ちは嬉しいけど、だからって甘えてたらズルズルしちゃうから、やっぱりダメだと思う」 「まあ舞琴ならそう言うと思ってたけどね」  舞琴の手を引っ張って膝の上に座らせると、後ろからギュッと抱きついて、煌耶は大きな溜め息を吐き出した。 「煌耶さん。自分の部屋だからって、調子に乗りすぎですよ」 「しばらく会ってなかったし、舞琴補給です」 「なにそれ」  可笑しくて肩を揺らすと、煌耶も一緒になって笑い声を上げた。 「さて。そろそろ送ってくださるかしら」 「仕方ない。送って差し上げます」  軽く触れるだけのキスをすると、すぐに帰り支度を整えて煌耶の家を出る。  煌耶の母親からは、煌耶と同じく泊まっていけば良いと言われたが、そこまで甘えられないからと丁寧に断って、挨拶を済ませて車に乗り込んだ。  家に帰るだけの短いドライブだが、久しぶりに煌耶とゆっくり話せる機会だったので、寝る前に直接会って話せたのはラッキーだった。  また会う約束をして、舞琴は玄関で帰っていく煌耶を見送った。
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