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あっという間にクリスマスや正月が過ぎ、バレンタインを迎えるころになって、ようやく煌耶と休みを合わせて取れるようになった。
そして最近になってやうやく、三上が変な行動を取っていた理由が判明して、そのくだらない理由に舞琴と煌耶は溜め息を吐くしかなかった。
「煌耶にフラれた腹いせとか。なんでまたそんなことを、三上さんが手伝うことになったのやら」
「女が絡むと本当にポンコツだよな、アイツ」
三上の話では、お付き合いしたい女の子を紹介してもらうために、間に入った女の子のお願いを聞く必要があったと言う。
その間に入った女の子というのが煌耶と同じ大学で、校内で見掛けた煌耶に片想いをしていたらしい。
そこそこ可愛い女の子で、それゆえに自尊心を傷付けたのか、一切煌耶に相手にされないのを逆恨みして、彼女と別れさせろと三上を使ってなんとか出来ないか画策したらしい。
「煌耶はモテるからね」
「だから言ってるでしょ。俺はモテないよ」
「まだそんなこと言う?今回の話だって、その女の子が煌耶にフラれた腹いせだったんでしょ」
「フラれたもなにも、俺は舞琴以外と付き合ったこともないし、告白されたことだって一回もないよ?そういうのは世間ではストーカーって呼ぶんだよ」
三上からは謝罪があったので今回は許すけどと、煌耶は顔を歪めて心底嫌そうな顔をすると、この話はもうやめようかと何度か首を振った。
「やめやめ。よくない気分になる」
「そうだ。今年はあんまり時間が取れなくて、手作りチョコに落ち着いてしまいました」
そう言いながら、舞琴は袋を取り出して煌耶に手渡す。
「そうなの?でも手作りチョコとか、めちゃくちゃバレンタインっぽいじゃない。開けてみて良い?」
「言いながら開けてるし」
「だって何年経っても、これは嬉しいから。それに年一回の特別なものだしね」
最初はカップケーキとクッキーだったねと、煌耶は初めて舞琴が手渡したバレンタインのお菓子を覚えていた。
「そうだね。あの日の帰りに雨が降ってなかったら、もしかすると自分の気持ちにも気付かなくて、煌耶に告白する勇気も湧かなかったのかな」
「俺はあの日の帰り、凄いドキドキして実は夜もあんまり眠れなかったんだよね」
「そうなの?」
初めて聞く話に驚いて顔を見つめると、実はそんなことがあったと煌耶が笑う。
「だって舞琴めちゃくちゃ可愛いくて。でも俺あんな風だったから、うっかり髪を触ったのを気持ち悪がられたんだと思ってた」
苦笑いして煌耶が答えるので、そんなことなくて良かったねと舞琴は笑って、煌耶が開けた箱からチョコを取り出してその口に放り込んだ。
「さて、今年の味はどうですか」
「今年も特別な味がします。ありがとうね」
「どういたしまして」
思いっきりハグをして、離れる間際に重ねるだけのキスをすると、甘いチョコの香りがして舞琴は煌耶の唇をペロッと舐めた。
「うわ。なにそれ。なんか久々に照れる」
煌耶はふざけてる様子もなく、咄嗟に両手で顔を覆って耳まで真っ赤にしている。
「やめてよ。私まで恥ずかしくなるって」
言われてみれば結構大胆なことをしてしまったと、舞琴は咳払いして座り直した。
「そう言えば、舞琴はこの前友達と遊びに行ったんだっけ」
恥ずかしさから立ち直ったのか、煌耶はお茶を飲みながらなにして遊んだのか知りたがって、舞琴の顔を覗き込む。
「優里亜は小学校からの友達なんだけど、めちゃくちゃ久しぶりに遊んだの。でもカフェでお茶して、本屋さんと洋服見て、その後カラオケに行っただけだよ」
「そういえば、舞琴は友達と遊ぶとカラオケに行くよね」
「そうだね。私がって言うより、友達が行きたがるからね。ついつい行き先考えるよりサッと行ってしまうかな。煌耶は友達と遊びに行かないの?」
「俺?俺の友達は皆カラオケ苦手なんじゃないかな。あとは誰かの家でゲームしたり、わざわざ集まらなくても、オンラインで遊ぶことが多いかもね」
楽しみに取っておきたいとチョコを最後に一つだけ取り出すと、美味しそうに食べながら箱を閉じて、煌耶は付き合う人によって、遊ぶ内容も随分変わるとしみじみ呟く。
確かに舞琴も煌耶と付き合ってから、初めて遊びに行った場所や思い出が沢山ある。
それは恋人同士だから行った場所も含まれているが、舞琴が煌耶と出会ってなければ、知らなかった楽しみなんだと改めて実感する。
「さて。そんな初体験を求めて、そろそろちょっと背伸びしたレストランに行きますか。予約の時間が迫ってますよ舞琴さん」
「なんかドキドキしてきた。こんな贅沢をしてもいいんでしょうか」
「バレンタインだし良いと思う。それに大人になって急に出来る訳でもないから、今のうちから慣れとこう」
「なるほどね」
煌耶と付き合ってから、色んな初めてが押し寄せてきて楽しいことばかりで困ってしまう。
そんな贅沢な悩みを抱えつつ、3回目のバレンタインの夜を楽しんだ。
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