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「佐倉ちゃんて上條と仲良いよね」  7月に入って、この地域では有名な花火大会の日、浴衣を着た客で溢れかえる店内を見ながら、バイト歴6年の林田美夏は、カトラリーチェックをしていた舞琴に、不思議そうな顔をして声を掛けてきた。 「上條先輩ですか」 「ああ、高校が一緒だったんだっけ」 「ですね。まあ学校では一回くらいしか会えませんでしたけど」  舞琴が笑顔で答えると、林田はますます不思議そうな顔をして首を傾げる。 「いやさ、良いやつだけど上條だよ?もう一回言うけど、あの上條だよ?」 「なんですかそれ。上條先輩がどうかしたんですか」 「……あー。佐倉ちゃんて、性格までめちゃくちゃ良い子だよね」 「ん?」 「いや、なんでもない。お、噂をすれば上條じゃん」  視界に飛び込んできた上條は、大学生になっても相変わらず見た目には頓着しないのか、髪はもっさり、分厚い眼鏡で一向に垢抜けない。けれど舞琴の心はドキンと跳ねる。 「上條先輩!おはようございます。お疲れ様です」 「うん、お疲れ様。林田さんもお疲れ様です」 「お疲れー」  この日も上條はキッチン担当で、アルバイトにも慣れてきた舞琴はキャッシャー担当だった。  キッチンとホールで、ほとんど顔を合わせる時間がないと分かっていたからか、出勤してきたばかりの上條と会えて、舞琴のテンションは上がった。  上條が大学生になると、勤務時間や配置が変わり、バイト中に会話出来る機会がめっきり減ってしまった。だからこうして直接やり取りできる時間はかなり貴重だ。 「佐倉さん今日はキャッシャーなんだね」 「はい。上條先輩は最近ずっとキッチンですね」 「そうだね。俺モサッとしてるから、フロア出ちゃダメみたい」  困ったように笑いながら頭を掻く上條に、舞琴は驚いて声を上げる。 「え、それ店長とかに言われたんですか」 「上條は見た目で損するよねー。仕事出来るのに」 「まあ接客なんで、見た目は大事ですよね。ははは」 「ならオシャレの一つでも覚えなよ」  林田と上條がなにか話し始めたが、会計の客が現れたので舞琴はその場を離れる。  混雑して客が多い日は、仕事をしていてもあっという間に時間が過ぎる。この日もバタバタと対応に追われて仕事をしているうちに退勤時間が来た。 「はあ。今日はあんまり上條先輩と話せなかったな」  独り言を呟いて休憩室に入ると、菓子パンを齧る上條と目が合った。 「俺がどうかした?」 「上條先輩!」  舞琴が大声で名前を呼ぶと、上條は可笑しそうに笑って肩を揺らす。それが恥ずかしくて少し俯くと、上條がもう上がりなのかと優しく声を掛けてきた。 「俺ラストまでだから、今休憩なんだ」 「お疲れ様です。こんな時間に休憩なんですね」 「うん。佐倉さんはもう上がりでしょ。お疲れ様」 「上條先輩、最近その、あまりシフトが被らないので、良ければその……、少しお話したくて」 「え、俺と?俺は別に構わないけど」  上條は驚いた様子だが、その返答に舞琴は嬉しくて小躍りしたい気分になった。
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