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 9月の煌耶の誕生日に入籍を済ませ、就職に影響しないか心配していたが、それも杞憂に終わり10月の内定式を終えると、あっという間に冬が来た。 「本当に良かったのかな」 「良いんじゃないかな。俺は嫌なんだけどね」 「まだ言ってる」  結婚式を家族だけで済ませた舞琴と煌耶は、高山からのお祝いとして、フォトウェディングをすることになった。もちろんタダではない。雑誌に掲載するのが条件だ。 「そりゃ文句も言いたくなるよ」 「そうは言っても皆さん一流のプロが、私たちのために時間を割いてくれるんだから」  バリ島に向かう飛行機の中で、いまだに駄々を捏ねる煌耶を宥めると、こんな凄いお祝いはないと言って聞かせる。  そう。撮影はスタジオではなくバリ島で行われ、もちろん雑誌に掲載されるので経費も高山が勤める出版社が持つ。  その代わりにウェディングショットはもちろん、高山指定の企画に沿った衣装での撮影もある。舞琴がモデルとして誌面に出るのが絶対条件だった。 「だからって舞琴がまた雑誌に載るなんて」 「まあまあ。高山さんには日頃からお世話になってるんだし、お礼も難しいから、こう言う形でお返しできるなら安いもんだと思うよ」 「あの人まだ舞琴を諦めてないんだよね」 「しっかり断ったから大丈夫だってば」  煌耶は普段カップルでの撮影を断っている。色々と声は掛かっているようだが、これに関しては舞琴のことが大好きな高山の考えも同じようで、舞琴以外とのペアでの撮影は無い。  だから舞琴をモデルとして使いたい高山にとっては、一石二鳥、千載一遇のチャンスなのだろう。 「舞琴がどんなに断ってても、こうやってチャンスとみるや狡猾に話を進めてくるから。あのメスゴリラめ」 「ちょっと!高山さんみたいな美人捕まえて、メスゴリラとか言っちゃダメだよ。しかも狡猾だなんて」  煌耶は終始不満そうだったが、カメラを向けられると最高の顔をする。  最初はやはり緊張した舞琴も、煌耶のその顔に見惚れたり、つられて笑いながら二日にわたる撮影は順調に進んだ。  仕事としての撮影を無事に終えると、スタイリストが何パターンか用意してくれたウェディングドレスを着て、プライベートな撮影も無事に撮り終えた。 「舞琴ちゃん、今回も無理言ってごめんなさいね」  煌耶のワンショットでの撮影を見守っていると、高山がやってきて、舞琴に冷たいジュースを手渡す。 「いえいえ。こちらこそ、素人が何度もこんなこと、本当に良いんでしょうか」 「上條くん、いや、モデルのKO-YAにとっても、舞琴ちゃんとの共演はとても反響が良くてね。舞琴ちゃんが載ったazaleaは売り上げが何倍にも跳ね上がったのよ」 「またまた、そんな」 「本当よ。舞琴ちゃんだって、街を歩いて実感はあったでしょ」 「それはまあ」  貰ったばかりのジュースの蓋を開けて口を付けると、街で声を掛けられて煌耶が不機嫌になったことを思い出した。 「KO-YAはこれからもっと人気が出ると思うわ。今はメンズ雑誌の専属だけど、大学を卒業したらそのやり方も変えるかも知れない話は聞いてる?」 「少しだけ。私に専門的なことは分からないので」 「そうね、分かりやすく言うと、舞琴ちゃん以外のパートナーがつく可能性も出てくるってことよ」 「それはお仕事ですし、仕方のないことだと思います。今まで配慮していただけていたのが、恵まれていたんだと思ってるので」  口ではお利口さんにそう答えても、舞琴は拳を固く握っていた。 「舞琴ちゃんにはもう決まった仕事もあるし、こんな風に上條くんと一緒に撮影したりすることは出来なくなるでしょう?」 「そう……ですね」 「私たちだって本意じゃない。貴方たち夫婦がどんなに仲良しか、私は一番よく知ってるし、皆もそうよ。だから今回の企画も通った」 「…………」 「だけどこれからはKO-YAの成長のためにも、苦汁を舐める機会が出てくる。上條くん本人にも、舞琴ちゃん、貴方にもね」 「苦汁だなんて。仕事ですからワガママや勝手ばかりが通る訳はないですよ」  数メートル向こうで撮影をこなす煌耶の姿を見つめて、まだ見えない女性の影が寄り添う姿を想像して、舞琴はなんとも言えない複雑な思いを抱えるだけだった。
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