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 急いで着替えを済ませて、自販機でジュースを買ってからウキウキしながら上條の正面に座ると、プルトップに指を掛けて蓋を開ける。 「佐倉さん、俺なんかと話して楽しいの?」 「え、どういう意味ですか」  突然の質問に驚いて上條の顔を見つめると、そのままの意味なんだけどねと、少し卑屈な声が続いた。 「ごめんなさい。休憩中なのに、やっぱり迷惑でしたよね」  舞琴があからさまに肩を落としてしょげると、上條は慌てて違うと答えた。 「迷惑なんかじゃないよ。でも、なんで俺?三上とかの方が喋ってて楽しくないかな」 「三上さんですか?あんまり話したことないので、よく分からないですけど、私は上條先輩とお話したかったんです」 「佐倉さんは良い子だよね」  そう言って笑う上條に、見えない線を引かれた気がした。これ以上入ってくるなと。  だけど舞琴は上條が好きだし、そんな風に冷たく距離を取られても、簡単に引き下がるつもりはなかった。 「林田さんにも言われましたけど、私は別に良い子でもなんでもないですよ」 「そうかな。凄く良い子だと思うよ」 「それ褒めてませんよね?」 「そんなことないよ」  菓子パンを食べ終わった上條は、炭酸を飲みながら苦笑いすると、俺なんかとも話してくれるしとまた卑屈なことを言う。 「上條先輩のそれって癖ですか」 「ん?」 「俺なんかって言わないでください。なんか腹立ちます」 「腹立つんだ」  今度は可笑しそうに肩を揺らして上條が笑う。 「そうですよ。私は上條先輩が好きですし、そんな風に茶化されると腹が立ちます」 「へ?」 「え?」  静かな休憩室の空気が張り詰める。勢いで言ってしまってから、舞琴は上條と目が合った気がして、一気に顔が赤くなった。 「いやごめん。大丈夫だよ。今のは人として好きって意味で言ってくれたのは分かるから」 「え?」 「それより時間は大丈夫なの」  休憩室の時計を見つめて上條が心配そうに言うので、舞琴は慌てて時計の方を振り返って上條に背を向ける。  時間は22時半。徒歩で帰れる距離ではあるが、確かにいつもより遅くなってしまった。 「うわ……もうこんな時間になっちゃってる」 「林田さんたちラストまでだから、今日は一人で帰るんだよね?大丈夫そうかな」 「それは慣れたので大丈夫です。それよりあの、上條先輩」 「うん?」 「……連絡先、交換してくれませんか」 「え、俺と?なんで」 「なんでって。やっぱりダメですか」 「いやダメじゃないけど。ああ、誰かのことで相談し易いとかかな」 「え?」 「そうじゃなきゃ、わざわざ連絡取りたくないでしょ」 「よく分からないんですけど、私はただ単に、上條先輩とお話ししたいだけなんですけど」 「へ?」  上條の言葉に舞琴が怪訝な顔で答えると、今度は上條が素っ頓狂な声を出して驚いた顔で固まっている。耳が赤い気がするけれど、もしかして照れているのだろうか。  咳払いして居住まいを正した上條が、連絡先ねと呟きながらスマホを取り出したので、舞琴も慌ててスマホを取り出して、念願の連絡先を交換する。 「あの、今日連絡しても良いですか」 「あ、うん。大丈夫だよ」 「ありがとうございます!じゃあ、私はそろそろ失礼しますね。休憩中に邪魔してすみませんでした」 「大丈夫だよ。またね」 「はいっ」  上條と連絡先が交換できたのが嬉しくて、舞琴はスキップする勢いで満面の笑みを浮かべて休憩室を後にした。その後ろ姿を微笑ましげに上條が見つめていたことには気付かずに。
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