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 帰り道、酔い覚ましに少し歩こうと、煌耶に手を引かれて辿り着いたのは、駅の近くにある、あの思い出の公園だった。 「今日は随分冷えるね。舞琴、寒くない?」 「大丈夫だよ。こうやってくっついとくから」  ベンチに座って、煌耶の腕にしがみ付くようにもたれ掛かると、大好きな大きな手が舞琴の頭を撫でた。 「Emyna(エミナ)ってモデルの子、知ってるかな」 「エミナ?」 「しばらくの間、その子と固定でペアで組まされるかも知れないんだ」 「そうなんだ。それがどうかしたの」  隣の煌耶の顔を覗き込むと、その上目遣い可愛いねと不意にキスされて、真面目に聞いてるのにと舞琴は頬を膨らませる。 「実はね、だいぶ前からオファーが来てたらしくて。でも素行にかなり問題のある子みたいで、高山さんが断ってくれてたんだけどね」 「それがどうして仕事で組むことになったの」 「大きな事務所に移ったらしくて、そこは昔から高山さんがお世話になってるところみたいでね。売り出し中の子だからって、ごり押しされちゃったみたい」  煌耶は舞琴の鼻を摘むと、納得いかないけどねと指を離して、おでこにチュッとキスをする。 「強引なやり口なのは分かったけど、それがなにか問題あるの?」  煌耶の手を握って、お返しに手の甲にチュッと唇を当てると、笑顔で見つめ合う。 「そのEmynaってモデルの子、結構前から俺のファンらしくて、まあ高山さん曰く、職権濫用で近付いて来たヤバい子なんだよね」 「なるほど?」 「今でも舞琴を諦めてない高山さんとの交換条件で、俺は女性モデルと仕事してきたんだけど、その都度、相手は代えて来たんだ。それが今回相手が固定化されるからちょっとね」  高山の舞琴への執着はさて置き、つまりはちょっと痛めのファンが、公式のペアモデルに決まってしまったということか。 「煌耶のファンも、急に固定のペアが出来ると、憶測を呼んでざわつく感じかな」 「まあ要約したらそんな感じだね。俺が二度以上組んで撮影したのは、謎の美人モデルMACO(マコ)だけだから」 「キャー。黒歴史。その呼び方やめてよ」  ふざけ合って笑うと、煌耶が危惧している理由はなんとなく分かる気がした。 「とにかく、そのEmynaってモデルの子との露出が増えてくることで、舞琴に嫌な思いをさせないか心配なんだ」 「事情は分かったけど、もう決まったことで、どうにもできないんでしょ」 「契約があるからね」 「なら仕事なんだもん。きちんとこなさないと」 「舞琴は嫌じゃないの?」  少し寂しそうな顔で舞琴を見つめる煌耶に、触れるだけのキスをすると、嫌に決まってると顔を顰める。 「嫌だとか個人的な気持ちを優先させられるほど、仕事って簡単な物じゃないでしょ。それに煌耶だって、先輩たちがカッコいいからって、仕事辞めろなんて言わなかったじゃない」 「あんな大人の色気がある人たちと、舞琴が可愛がられて働くのは、今でも嫌だけどね」  すぐ隣で子供みたいに、口を尖らせて拗ねる煌耶の額を指で弾くと、バカ言わないのと首を振る。 「また無意味な嫉妬を……。そんなことより。私が嫌だからって断れる仕事なんて、果たして責任を持ってやってるのかってこと。死の危険があるとかなら、確実に反対するけど違うでしょ」 「そりゃまあ、確かにね」 「焼きもちを焼かないとか、そうは言わない。出来ることなら他の人と、仕事だとしてもくっついて欲しくない。でも仕事だもの。責任は果たさないと」 「確かにね。仕事を受けるにも責任は伴うよね。舞琴の考えは分かった。あと一つ、いいかな」  舞琴の手をギュッと握って真剣な顔をすると、返事をする代わりに顔を覗き込む舞琴のおでこにキスをして、煌耶は決意を固めたように呟いた。 「多分、今年いっぱいか、来年の春までにはモデル辞めようと思ってる」  その真剣な表情に、世間が望むかどうかじゃなく、煌耶本人にとっては、精一杯やり尽くして頭打ちを感じる時が来たのかと理解すると、舞琴はうんと頷いて煌耶に笑顔を向けた。
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