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眠る前にシーツだけは取り替えたくて、ふらつく足でなんとかシーツを取り替えると、汚れた物はその場に捨て置いて、狭いベッドで足を絡めて抱きしめ合って眠った。
舞琴が目を覚ますと、煌耶は既に起きてベッドから居なくなっていて、足元に置きっぱなしにしていたシーツも片付いていた。
「煌耶?」
少しかすれる声で煌耶を呼ぶと、バタバタと駆け寄ってくる足音がして、おはようと髪を撫でられる。
「起きて大丈夫なの?」
お茶の入ったグラスを手渡されると、渇いた喉に一気にそれを流し込んだ。
「ああ、生き返る」
「まだ9時過ぎだからもう少し寝てたらどう?」
「そうなんだ。ならもう少し寝てようかな。それより煌耶はなにしてたの」
「掃除と洗濯。シーツももう干したよ。今日は暑いからすぐ乾くだろうね」
ベランダに目を向けると、風で翻るシーツが見えた。
「そんなのいいのに。でも助かる。ありがとう」
「いいから、ゆっくり寝てなよ」
グラスを受け取って短くキスすると、煌耶は布団を掛け直し、ポンポンと肩の辺りを叩いて最後にくしゃりと舞琴の頭を撫でた。
それからうとうとして再び寝息を立てると、どのくらいの間眠っていたのか分からないが、しばらくしてコーヒーの香りが漂ってきて、舞琴はゆっくりと目を覚ました。
「ん……」
寝ぼけ眼をこすって大きくあくびをすると、そういえば体がさっぱりしてることに気付く。ふと最初に寝る直前に煌耶が拭いてくれたのを思い出して、羞恥で一気に目が覚めた。
急いでベッドから出ると、クローゼットから取り出した、ロング丈のTシャツワンピースをすっぽりかぶり、替えの下着を持ってベッドルームを出る。
「おはよう」
「あれ、起こしちゃった?」
煌耶はキッチンに立って料理をしていた。コーヒー以外にも、食欲をそそる香りがしてくる。
「大丈夫だよ。ご飯作ってるの?悪いけど私ちょっとシャワー浴びてくるね」
「はは、なんで謝るの。あれだったらお湯貯めてあるから、しっかり浸かっておいで」
「……ありがと」
フライパンを振るう姿を見て、酷く懐かしいアルバイト時代のことを思い出した。しかも煌耶はセットしてない髪に、コンタクトの替えがないからか眼鏡を掛けていた。
妙にドキドキする心臓を押さえてバスルームに向かうと、服を脱いで鏡に映った自分の姿に絶句する。
首筋から胸元、乳房や腰骨の辺り。至るところにキスマークが残っていて、激しく求め合った記憶が蘇って顔から火が出る。
「もう!夏なんだから、服着ても見えちゃうじゃない」
そう呟く顔がニヤけてしまい、舞琴はパンッと頬を叩くと、蛇口を捻ってシャワーを出す。
勢いよく噴き出すシャワーを浴びて、サッと顔を洗うと、髪や体を洗ってからバスタブに浸かる。
「ふう。やっぱり夏でも湯船に浸かると疲れが取れる気がする」
大きく伸びをして、首や肩のストレッチをすると、10分と経たずにじんわりと汗が滲んでくる。
バスタブの縁に頭を預けてぼんやりと天井を眺めていたが、そう言えば煌耶がご飯の支度をしていたのを思い出し、タイミングよくお腹が鳴った。
「なに作ってたんだろ」
バスタブから出てシャワーでもう一度汗を流すと、洗面所に出て手早く体を拭いて着替えを済ませて、バスルームのドアを開ける。
リビングから冷房の効いた涼しい風が吹き込んで、風呂上がりで火照った体がクールダウンしていく。
そのまま歯を磨いて髪を乾かすと、ようやくバスルームを出てリビングに向かった。
「気持ちよかった。お湯ありがとうね」
「もう上がったの?もっとゆっくり入ればいいのに」
リビングのソファーに座ってテレビを見ていた煌耶は、舞琴に気付くとすぐに立ち上がった。
「気持ちいいけど、あんまり長いとのぼせるよ」
「それもそうか。お腹減ってるならすぐ食べられるよ」
「お腹減ったかも」
「じゃあ支度するよ。俺も食べてないんだ」
にっこり笑った煌耶はキッチン立って、作っていた料理を電子レンジやフライパンで温め直している。
その隙間を縫ってお茶をコップに注ぐと、なんとなく煌耶に抱きついて背中に頭を押し付ける。
「え、なに」
「いや、煌耶が居るなと思ったらなんとなく」
「なにそれ。可愛いなあもう」
「ふふ。煌耶の匂いがする」
「……ベッドに押し倒すよ?」
「いや結構です」
パッと腕を離して、お茶の入ったグラスを手に早々にキッチンから退散すると、ソファーに座って喉を潤す。エアコンの冷えた風が気持ちいい。
ふとベランダに干された洗濯物に目をやると、普通に舞琴の下着も干されていていたたまれない気持ちになったが、見ないフリをしてやり過ごした。
「お待たせ。コーヒー飲むなら淹れようか」
「なにからなにまで、ありがとね」
舞琴に世話を焼くのは贖罪の意味もあるのだろうか。それならそんなことをしなくても、離れていた間も、舞琴や家族のために打てる手を打ってくれただけで、もう充分なのに。
「はいどうぞ」
「ありがと。じゃあ食べようか」
「いただきます」
「いただきます。美味しそう」
煌耶が作ったブランチを食べながら、この後実家に謝罪しに行く件について話していると、それとは全く関係ない用事で、煌耶の母親から舞琴に電話が掛かってきた。
ついでになってしまったが、夫婦でやり直すことを決めた話をすると、怒って諌めながらも、煌耶の母親はありがとうと電話口で泣いた。
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