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5
約束の月曜日、舞琴は学校からダッシュで帰宅すると、酷く汗をかいたので慌ててシャワーを浴びることにしたが、そのせいで支度に思ったよりも時間が掛かってしまった。
それでも当初約束した15時には充分間に合う。
汗臭いままで行くのは恥ずかしかったので、上條と会える時間は少なくなるが、シャワーを浴びる時間が取れて良かったと舞琴は思う。
駅前の改札口で待ち合わせをしているのだが、着る服と髪型に悩んでいるうちに、あっという間にギリギリの時間になってしまって、舞琴は履き慣れないサンダルで走って駅まで向かうことになった。
「どうしよう、待たせちゃってるかな」
舞琴はポーチからタオルハンカチを取り出すと、せっかくシャワーを浴びたのに、また吹き出した汗を拭って、深呼吸しながら改札口に向かう。
普段滅多に着ないハイウエストのワンピースに、7センチのウエッジソールサンダル。せっかく上條と会えるのだから、頑張ってオシャレした。
緊張しながら辺りを見渡すと、ダボついたジーンズと白いTシャツの上に、カーキのシャツを羽織った上條の姿が見えた。
「お疲れ様です、上條先輩」
「ああ佐倉さん。お疲れ」
「待たせちゃいましたよね、すみません」
「全然大丈夫だよ」
そう答える上條だが、どこか様子がおかしくて、なかなか舞琴と視線が合わない。
やはり遅刻してしまったので、気分を悪くさせてしまったのだろうか。急に不安になって舞琴が俯くと、どうかしたのかと上條が顔を覗き込むように身を屈めた。
「どうしたの、喉渇いた?」
「あ、いえ。大丈夫で……す」
顔を上げて返事をすると、思ったよりも近くに上條の顔があって、舞琴の心臓はドキドキと暴れ出す。
すると今度はまた上條が視線をずらして、斜め向こうを見ながらわざとらしく咳払いをする。
「そう?なら良いんだけど」
なんだかギクシャクした空気が流れ始めた。
舞琴もどうして良いか分からずに、また俯いて昨夜塗ったばかりのペディキュアを見つめて小さく溜め息を漏らした。
「……いね」
「え?」
「今日の服、可愛いね」
舞琴がパッと顔を上げると、顔を真っ赤にして頭を掻きながら、上條が舞琴を見つめていた。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。どういたしまして」
そこまで言い合って二人して吹き出すと、一気に場の空気が変わった気がした。
「……とりあえず、ここに居ても暑いし移動しよっか」
「あ、はい」
電車に乗って一番近い繁華街まで出ると、とりあえず今日の予定を決めようかと、カフェに入ってドリンクを頼むことにした。
「さて。佐倉さんは、今日はなにして遊びたい?」
「そうですね。いつも友達とはカラオケくらいしか行ったことがなくて」
「カラオケか。残念だけど俺あんまり得意じゃないな」
「いえ、カラオケじゃなくて良いんです。それは友達といつでも行けるので。ボウリングとか、アミューズメント施設とかはどうですか」
「俺は良いけど、佐倉さん、そんなに可愛い格好してるのに良いの?」
可愛い格好と言われて舞琴の心臓はキュンと跳ねる。
きっと顔は真っ赤になってしまっている気がするけれど、冷たいドリンクを飲んで誤魔化すと、大丈夫ですと返事する。
「私ボウリングとか行ったことなくて。ゲームとかボウリングとか、そういうのがいっぺんに遊べるところがあるって聞いたんですけど」
「ああ。じゃあそこに行こうか」
「はいっ」
元気よく返事すると、上條の口元が柔らかい笑みを作る。
「でもずっと動きっぱなしもしんどいし。まあ、他のところに行くかどうするかは後で考えるけど、佐倉さんは、今日は何時まで大丈夫なのかな」
「普通にバイト上がりの時間くらいまでなら大丈夫です」
「そっか。じゃあ晩ご飯もどこかで食べようか」
「良いんですか」
「ラーメンとかファストフードになると思うけど。ごめんね、俺もあんまり詳しくなくて」
「いえ!大丈夫です。楽しみにしてますね」
「よし。じゃあ行こうか」
カフェから目的地まではそう遠くはなかったが、あまりの暑さに持っていた飲み物もすぐに飲み干してしまう。
6階建ての大きなビルに入ると、冷房が効いていて、思わず涼しくて変な声で唸る舞琴に、上條はお腹を抱えて笑いながら、変な声出ちゃうよねと頷いた。
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