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 バドミントンやバスケットボール、ボウリングにゲームセンターと、施設内の遊びを一通り楽しむと、二人の間の妙な緊張感はなくなって、すっかり遊びに夢中になっていた。 「そろそろご飯食べに行こうか」 「本当だ。もうこんな時間なんですね」  ゲームセンターのメダルゲームのメダルが無くなったタイミングで、上條がスマホを取り出して、舞琴もその画面を覗き込むと19時を過ぎていた。  ビルを出ると、陽が落ちて随分マシになったとはいえ、中の冷房が効いていただけに、蒸し暑さで肌がすぐに汗ばむ。 「さっき調べたんだけど、席が空いてるか分からないから、とりあえず行ってみてもいいかな」 「大丈夫ですよ。なんのお店なんですか」 「お好み焼き屋さん。センスなくてごめんね」 「センス関係あります?美味しそうじゃないですか」  微妙な距離感で並んで歩きながらも、上條はサンダルの舞琴を気遣うように、ゆっくりした歩調に合わせてくれているのがよく分かる。  しばらく歩いて目に入ったビルの一階に、目指すお好み焼き屋の看板を見つけて、二人ならすぐに入れそうなので、顔を見合わせてにっこり笑い合う。  凄く安いのにボリュームのあるお好み焼きを、テーブルの鉄板で自分達で焼いて食べるのは楽しくて、お互いが頼んだものをシェアしたり、会話も弾んだ。 「お腹いっぱいになったかな」  店を出るとさらに陽が落ちて、辺りはすっかり暗くなっていた。  20時前になった時計を確認すると、とりあえず地元の駅に帰る算段で、駅に向かって歩きながら話を続ける。 「凄い美味しかったです。お腹いっぱい。良いお店でしたね」 「良かった」 「この後はどうしますか」 「映画館はちょっと遠いから、帰りの時間もあるし、ネカフェに行ってみようかと思ってるんだけど、それでも良いかな」 「ネットカフェですか。行ったことないから、楽しみです」  舞琴が笑顔で答えると、上條は安心したように笑顔を作って、スマホをポケットにしまった。  ちょうどラッシュの時間で混雑した電車に揺られて、地元の駅まで引き返すと、あのままあっちで遊んでても良かったと、ラッシュの恐ろしさに二人で苦笑いした。 「月曜日だから、ここはそんなに混んでないね」 「よく来たりするんですか」 「いや、初めて来るよ」  ドリンクバーで飲み物をコップに注いで、指定の部屋に入ると、思った以上に静かで狭い空間に、それまで意識せずに来た緊張感が一気にぶり返す。 「佐倉さん、手前に座る?」 「はい。上條先輩奥の席どうぞ」  手前と奥と言っても、いわゆるカップルシートは腕がぶつかるほど狭くて、そんなところで密着して座ることになって、舞琴は終始ドキドキして落ち着かなくなってしまう。 「結構狭いね」  小声で困ったように囁く上條に、舞琴も苦笑いを浮かべながらそうですねと囁いて返す。 「あんまり声も出せない感じなんですね」 「少しの会話なら平気じゃないかな」  フロントで借りて来たヘッドホンをセットすると、テレビを操作して、どんな映画を見るか、二人で画面を見ながら小声で相談して、スパイアクションを見ることにした。 「トイレ行っとかなくて平気?」 「あ、ちょっと行って来ます」 「うん。実は俺も行っときたい」  二人して小さく笑うと、一旦ブースを出てトイレを済ませ、舞琴が戻った時には既に上條もソファーに座って待っていた。 「お待たせしました」 「じゃあ観ようか」  ヘッドホンを渡された時に指先がぶつかって、舞琴の心はまた跳ねた。  フロア全体が暗いので、舞琴が顔が赤くなったのは見られてない気がするけれど、相変わらず上條はもっさりした前髪で目元が隠れていて、表情までは分からない。  映画が始まるといつの間に借りて来たのか、冷房で冷えるといけないからと、上條は舞琴の足元にブランケットを掛けてくれた。  映画を見ながら、たまに気になって、真横で画面を見つめる上條をチラ見してしまう。  意外と高い鼻筋だとか、思ったよりもぽってりした唇が見えると、舞琴は更にドキドキして、慌てたように視線を画面に戻して必死に映画に見入った。  途中で盛り上がるシーンがあると、二人で顔を見合わせて笑ったり、それなりに楽しんで映画を見ていると、あっという間に2時間近くが経ってしまった。 「結構面白かったね」 「普段見ない系統なんで、凄く楽しかったです」  ヘッドホンを外して、すっかりぬるくなった飲み物を飲みながら、小声で感想を言い合ってしばらく談笑する。 「さて。こんな時間だし、そろそろ帰らないとね」 「そうですね」  上條がポケットから取り出したスマホを見ると、時間は22時になろうとしていた。  こんなに近くに上條が居る。その時間が終わってしまう。舞琴はそんなことを考えながら、少し寂しい気持ちを抱えつつブースを出る準備をした。 「まだ時間大丈夫なら、ちょっと散歩する?」  ネットカフェを出ると、上條がそんなことを言った。  舞琴にしてみれば、そんな嬉しい申し出があるとは思わなかったので、二つ返事で了承して、駅の近くにある公園まで二人で並んで歩いた。
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