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 途中の自販機で買ったスポーツドリンクを飲みながら、公園のベンチに座ると、上條はどこか申し訳なさそうに小さく呟いた。 「俺なんかと遊んで楽しかった?」 「上條先輩と一緒だから、凄く楽しかったです。それに誘ったのは私ですよ」 「そっか。なら良いんだけど」  夜遅くなったからか、だいぶ涼しい風が吹いて、気持ちがいいとかたわいのない会話をする。  今日一日で、上條との距離がグッと縮まった気がして、舞琴はドキドキしながらも、この勢いで気持ちを伝えてしまいたくなった。 「あの、上條先輩……」 「ん?」 「今日は無理を聞いてもらってありがとうございました。本当に嬉しかったです」 「いいよそんな。俺も凄く楽しかったし」 「あの。それで、ですね」 「ん?どうかした?」  急にモジモジし始めた舞琴に、上條は不思議そうな顔をしながらどうしたのかと首を傾げる。  言うなら今しかない。舞琴は意を決して上條の方に体を向けると、小さく咳払いしてから切り出した。 「あの、迷惑なのは充分承知の上で言うんですけど」 「え、なに?」 「私、上條先輩が、好き……なんです。先輩は彼女とか居ますか?」 「ブッ、ゴホッ、ゴホッ」 「え、先輩。大丈夫ですか」  飲んでいた飲み物で咽せた上條に、慌てて舞琴はハンカチを差し出すと、背中をさすってごめんなさいと呟く。 「いや、佐倉さん。そんなことより、急になに」 「え?……あっ」  口元をハンカチで覆いながら、驚いた顔で上條に見つめられて、舞琴は告白めいたことを口走ったことに気付いて、一気に顔に火がついたように赤くなった。 「いや、え?ちょっと待って」  舞琴の言葉にかなり驚いたらしく、上條はハンカチで口元を覆ったまま固まってしまった。 「あの、ごめんなさい」 「いや謝って欲しい訳じゃないんだけど、その……え、揶揄ってるとかじゃなくて?」 「……揶揄ってません。去年バイトを始めてから、その、ずっと優しくしてもらって、上條先輩のことが好きになってしまったと言いますか」 「本当に俺?こんなもっさりしててイケてないのに?」 「また言うの恥ずかしいんですけど、上條先輩だから好きになったと言うか。うう……」  舞琴が両手で顔を覆って俯くと、上條もいよいよ冗談ではないと悟ったのか、困惑しながらもポツポツと話し始める。 「いや確かに。前に連絡先聞かれたことも、電話もそうだけど。今日誘われたりしたから、ちょっとはその、俺も期待しなくもなかったけど。佐倉さんは本当に俺が好きなの?」 「……はい」 「いつからか聞いてもいい?」 「……はっきりとは分からないですけど、バレンタインの時の帰りに雨が降ってて、あの時にトドメを刺されたと言いますか」 「マジか」  今度は上條が両手で口元を覆って、これは照れるし恥ずかしいねと苦笑いする。 「先輩に彼女さんが居るなら、そう言って貰えば諦めるので」 「いや、こんなもっさりしててイケてないのに、彼女とか居る訳ないし」 「本当ですか」 「俺のどこにモテる要素があるの。そんな変わったこと言うの、佐倉さんくらいだと思うよ」 「えと……じゃあ、その」  舞琴が言い淀んでいると、上條がちょっと待ってとそれを制して、なにかを決意したように咳払いした。 「なんか、ぐちゃぐちゃになったけど。佐倉さん」 「はい」 「俺なんかで良ければ、お付き合いしてくれますか」 「はいっ」  舞琴はその場で跳び上がりそうなほど、嬉しくなって、上條の照れた顔を見るだけで幸せな気分になった。 「本当に俺なんかで大丈夫なの?」 「俺なんかってやめてください。上條先輩が良いです」 「うっ、これめちゃくちゃ照れるね」  恥ずかしいわと、また口元を両手で覆ってそっぽ向く上條に、舞琴もつられてニヤニヤしてしまう。  静かな公園に強い風が吹き抜けると、上條は思い出したように時間と呟いた。 「あんまり遅いと親御さんが心配するよね。とりあえず家まで送るよ」 「いや、そんなのいいです」 「ダメだよ。送って行くよ」  そう言ってベンチから立ち上がると、上條は手を差し出して舞琴に手を繋ぐように促すと、二人は夜の公園で初めて手を繋いだ。
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