ドキドキの理由は伝えられない

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 花枝には可愛い双子の妹がいる。  妹の名前は花蓮。顔の形は花枝も瓜二つだが、妹の花蓮は己の容姿や年齢に過信することなく、常に美を研究し己の可愛さを向上させつつあった。  妹は月、姉はすっぽんと称されることも少なくないのだが、花蓮の姉はそんな人々の噂話を気に留めることなく己の欲望に忠実なので、ドラマや漫画のように妹に嫉妬して、姉妹仲が最悪ーーというケースは微塵もない。  むしろ、姉妹仲は良好なので、花蓮も己磨きに拍車をかけているのだった。  そんな花蓮に最近、悩みがあった。それはーーーー、 「そんでさあ、去年からやたら告白されてんだけど、普段は絶っっ対に俺と目を合わせないし挨拶もしない癖に、告白ばっかりしてくるわけ。そんな奴を好きになれってのがおかしな話だろ?」  隣の席の木下がやたらと話しかけてくることだ。内容は大体、いつも同じで彼曰くのストーカーさん。花蓮自身は見たことも会ったこともない名の知れぬストーカーさんに、木下が大変迷惑しているという愚痴話を授業が始まるまでの休み時間中にずっと話してくるわけだ。かなりいい迷惑。 「迷惑な話だね」  花蓮は木下に対しての意味も含んで言ってみたが、案の定、木下はストーカーさんのみのことだと思い込んで話を進めた。 「そうなんだよ。わざわざこっちから挨拶しやっても、「びゃっ!」とか奇声を上げて逃げ出すんだぜ? 見てるだけでイライラするしムカつくんだよな」 「……告白されるとき、ドキドキとかしないの?」 「はぁ? しないしない。そりゃあ最初の時はしてたかもしんねえけど、今じゃあそんな気持ちになりやしねえよ」 「けど、ラブレター貰ったら行くんでしょ?」 「そりゃあ、行くに決まってるだろ。流石にそこまで鬼じゃないっての」  不承不承という風に肩を竦めている木下だが、普通の人間なら興味のない迷惑としか思っていない行動をとる相手に対して気を使ったりしない。 (なのに、毎回告白されに行っているってことは少なからず相手に好意を持っているんじゃないかって疑っちゃうんだよね) 花蓮は手の平に顎を乗せて、むっすりと腕を組んでいる木下を横目で見た。 「好きじゃないなら告白を受けなければいいじゃん」 「どうやって?」 「指定された場所に行かなければいいんだよ」 「そんな不誠実な態度は取りたくない」 「相手を嫌ってるなら不誠実な態度の一つや二つ取ったって、恨まれたって別にいいんじゃない?」 「……嫌だ」 「我儘」 「我儘で悪いか!」  カッと怒りだす木下に、花蓮は「図星を差されたか」と細く笑む。 「カッコつけたがりな木下に、ストーカーさんはお似合いなんじゃない?」 「ふっ、ふざけんなよ!」 「ふざけてないよ、本心だよ」  フフッと笑い声を立てる花蓮に、木下は顔を真っ赤にさせてそっぽを向く。 「……好きな奴に、不誠実な奴だと思われたくないんだよ」 「何か言った?」 「なんでもない!!」  そっぽを向いてしまっているせいで、木下の言葉を全く聞き取れなかったが、そんなに怒ることはないではないか。せっかく話しを聞いてあげているのに。  不貞腐れる風に唇を尖らせる花蓮を横目に、木下は己の胸を掴み下唇を噛むのだった。
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