ライト・トラベル

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 ほんの最近、小説を書き始めた。ここ一、二週間のことだ。当然まだ右も左もわからないし、語彙力なんて日常生活で困らない程度にしかない。だから、シャワーを浴びながら小説のアイデアを何かひらめいたときは、心臓が分裂して身体中で脈を打っているのかというくらい、全細胞がびっくりする。本当に、「ふぁあ…!」と声が出てしまう。小学生の頃、ゲームで最強装備を見つけたと、はしゃいでいた時とそっくりだ。幼い心は、どこまでも開け放たれていて、それでいてジャングルだった。毎日何にも縛られず、未知なる世界と対峙して、精いっぱい遊んでいたな。それが今では、そこら中にマンションが立ち並んでいて、残された自然さえ、公園になっている。まるで、最初から手配された世界。小説を書くことは、例え一時的にだとしても、僕をもう一度あの友人のいる世界へ戻してくれるのである。 「ただいま」 「あっ、おかえり…!すごく、大きくなったね」 「さあ、あまり、嬉しくはないよ」 「ほめてはいないよ」 「君は、全然変わらないね」 「わたしも、こう見えてちょっと大きくなっているんだよ。脇に毛が生えてきたの。ほら」 「そういうところだぞ、変わらないのは」 「なんだよう、その言い方」 「褒めてるんだよ」 「そう、ならうれしい」 「…変わらないな。ホントに」 「どうせきたなら、いっぱいあそぼうよ」 「できれば、そうしていたいよ」 「したいなら、すればいいのに」 「そういう意味で言ったんじゃない。こっちの世界には、戻って、浸る。そういう場所になったんだよ」 「どういうこと?」 「さあもう、ぼくもわからないや」 「ふぅん。そんなことより、ほら、あそこの木までかけっこね。よーいどん!」 「あっ、ちょっとまってよ…!」  合図を言い切る前に、彼女は走り始めていた。小さい背中を懸命に追いかけながら、ここは現実なのかと疑うくらいの、懐かしい匂いを感じていた。
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