女の子とワンちゃん

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女の子とワンちゃん

あのワンちゃん、ずっとあそこにいるわね。 買い物の帰り道、人気のない道の隅に座り込む大きな犬が気になった。 弱っているようにも見えた。 手当てをするため、大きな犬へ恐る恐る近づいた。 犬も此方に気付いたが威嚇するでもなくぐったりとしている。 ゆっくりと犬を撫で、体を観察した。 人懐っこいのか、弱っていてそれどころかではないのか。 立派な毛並みが泥に汚れていているが、どこか高貴なオーラが漂っていた。 「あら…」 泥で汚れていたため気づかなかったが血が出ていた。 ここからそう遠くないところに家があるが、 「家まで歩いてこれるかしら、うーん」 無理だと分かっていても一応大きな犬を担げるか試すがやはり無理だった。 「私、急いで救急セットを取りに帰るから、ここにいてね」 私は先ほど買った林檎を犬の近くに置き、自宅まで急いだ。 その間も犬は何も発することなくただ黙って女の子を見つめていた。 女の子は自宅に着くと買い物してきた荷物を乱雑に置き、救急セットを持って玄関の扉を開けた。 「!!」 玄関の先には大きな犬が見えたのだ。 「あらあら、追いかけてきたのね」 頭を撫でてやると犬はすり寄って女の子に懐いているようだった。 「もうさっきの林檎を食べたのね。林檎の香りがするわ」 女の子は何の躊躇もなく大きな犬を家に招いた。 女の子は、お風呂場に連れて行き、泥を洗い流し傷の手当てをした。 「痛そうな傷ね。槍で突かれたような…。こんなに可愛らしい子なのに、ひどいことをする人もいるのね」 女の子は大きな犬を抱きしめ撫でた。 一通り傷の手当てを終えると、女の子はハッとしたようにキッチンへ向かった。 犬も首をかしげ、慌ただしい女の子の後を追った。 キッチンでは女の子は溶けかけのアイスを冷凍庫に仕舞っている最中だった。 犬は女の子に近づき冷凍庫の中身を覗いた。 「お腹でも空いたの?」 犬はまるで女の子の言葉が分かっているかのように何度も頷いた。 「そうねぇ、おやつにしましょうか」 女の子はあらかじめ作っていたアップルパイを切り分けた。 「どうぞ」 アップルパイを頬張る犬を見ながら女の子はふと思った。 「ワンちゃん、もしかして狼…とか?」 出会った時は座り込んでいて気づかなかったが明らかに大型犬よりもはるかに大きいような。 犬は"ワンちゃん"と呼ばれたのが気に召さなかったのか不満そうな声をあげた。 「それにしても立派な毛並みね。銀色がキラキラ光って綺麗だわ」 犬は女の子に撫でられるのが好きなようですり寄りに行った。 アップルパイを食べ終えた犬の瞳はとろんとしており眠たそうで、女の子は何か掛けるものを持ってきて犬に掛けてやる。 犬からは安心しきったように、寝息が聞こえてきた。女の子も犬にもたれかかり、一緒に夢の世界へ。 目を覚ますと辺りは真っ暗で星が輝いていた。 夢か…、と思ったが、確かにアップルパイは減っていたし救急セットは出ているし。 外へ出てみると夜空には綺麗な、おおかみ座がキラキラと輝いていた。 けれど女の子には、おおかみはどこか悲しい瞳で自分を見つめているような、助けを求めているような、そんな姿に見えた。 「今度会ったらまたたくさん撫でてあげなくちゃ」 それから毎年夏になるとおおかみは女の子の元へと駆けていった。
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