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「え、空井も卓球部だったんだ!」
「白戸君こそ!」
高校入学から一週間、1年4組のクラスメイトとなったばかりの二人が、
卓球部の入部式で思いがけず出くわした。
今日は部活動一斉入部の日である。
各部活動に割り当てられた教室に入部希望者が集まり、
顧問や先輩・後輩たちと初顔合わせを行う。
一年生にとっては、青春3年間の命運を握る一大行事だった。
初対面の緊張から、自教室では滅多に言葉を交わさなかった彼らであったが、
今回の巡り合わせを機に打ち解けられた。
顧問が来るまで、他愛もない話に花を咲かせる。
話題は自然な流れで卓球へと移っていった。
「空井は中学でどれぐらいの戦績だった?」
何気ない質問に、空井の顔色は微かな戸惑いを見せる。
「あっ、そうだね……えっと……」
刹那の沈黙に白戸は怯えた。
踏み込んではいけない領域にうっかり立ち入ってしまった気がした。
胸騒ぎの陰から空井が怖々と告白する。
「実は僕、高校から始めてみようと思ってて……」
最悪の想定をしていた白戸からすれば、完全に拍子抜けだった。
「何だ、それぐらいで狼狽えなくていいよ」
空井が遠慮がちに首を竦めて間もなく、顧問が入室する。
今しがたの騒がしさが嘘のように、
緩みかけていた空気が一瞬にして引き締まった。
浅黒い眉間に幾重もの皺が寄っている。
ただでさえ近寄り難い雰囲気が漂っているのに、
ギラつくサングラスの反射がさらに威圧感を増していた。
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