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いよいよ最終段階であるラリーに取り掛かる。
空井もほとんどの球を狙って打ち返せるぐらいに進歩を遂げていたが、
未だ打球点をはっきりとは掴めておらず、打球の間隔がまちまちだった。
どうしたものかと頭を悩ます白戸。
ラリーのリズムは至って独特で、感性以外の表現は容易でなかった。
すると、果てしない静寂の奥に、ある鮮明な音が聞こえた。
時間経過に連れて、
大粒の雨が規則的な拍子を刻む程度に治まってきていたのだ。
「空井、外の雨音は聞こえるか?」
突然の問い掛けに空井は目を瞬く。
「うん、聞こえるけど……」
「この音に合わせて打ってみてくれ」
斬新な手法に驚きつつも、案外素直に受け入れた。
「……分かった」
耳を澄ませ、千載一遇のタイミングを見計らう。
ラケットは正解を心得ていた。雨が落ちる。球は跳ねる。
「よし、いいぞ! その調子!」
地に打ち付けられた雫はめげずに空へ手を伸ばす。
白球も志は変わらない。
台に触れたときには既に、次なる跳躍の機会を窺っている。
その関係性を理解すれば、ラリーは勝手に洗練されていく。
やがて彼らには雨音が聞こえなくなった。
ただし、雨が止んだのではない。
打球音が寸分の狂いなく雨音に重なったのだった。
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