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 白戸は脆いピンポン球を潰れんばかりに力強く握る。 だだっ広い空間をたった二人で専有していることに少しだけ特別感を覚えた。 「よし、打とうか」 打球がフォアハンドから澱みなくクロスに放たれる。 彼も伊達に推薦組を名乗っているわけではなく、 速さ・回転共に打ち返すのに難しくないチャンスボールだった。 「あれ?」 空井のラケットは勢いよく空を切った。 ポケットから取り出した2球目がすかさず同じ位置に送られる。 「なんでだ?」 またもラケットは球を掠めもしなかった。 実際に台で打った経験が一度もないのだから、よく考えれば当然の結果であった。 並み居る課題を瞬時に把握した白戸は空井の背後に移動する。 「ちょっと失礼するぜ」 空井の手の上からラケットを握り、一心同体となって素振りをする。 理想的な打球フォームを伝授するためだった。 腰をやや落としながら、肩を内に入れ、体全体で打ち込む。 ラケットは垂直状態から徐々に前へ倒していき、 打球の瞬間に一気に振り抜く。 空井の腕前を見据えた丁寧な指導により、 ものの10分で中級者と遜色なく打ち合えるレベルにまで達した。 空振りの兆候など、もはや微塵も感じさせない。
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