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「そんなことはない。好きな相手の好みは知りたいと思うし、覚えてる」
「いいや、そんなことある! むしろ平手食らって、すぐにフラれろ!」
「……おい」
バシバシとテーブルを叩く戸田くんと、いつもどおりの無表情だけどちょっと不服そうな顔をしている……ような気がする相馬くん。
二人の顔を交互に見て我がグループのおかんにしてリーダーである菜月ちゃんが盛大にため息をついた。
「もうね、あれだよ。戸田が悪い。相馬の手が届くところに唐揚げの皿とレモンを置いた戸田が悪い」
「えええぇぇぇ!? 俺が悪いの!?」
あきれ顔、あきらめ顔で言う菜月ちゃんの隣で相馬くんが大真面目な顔でうなずいている。そりゃあ、戸田くんも今日一番の大声を出したくなるだろう。
「て、いうか……なんで、さも当然って顔でうなずいてるの、相馬くん」
「……ん?」
こっそり笑っていると相馬くんはいつもどおりの無表情で首をかしげた。
「ほら、アホなことばっか言ってないで手を動かす!」
パンパン! と菜月ちゃんが手を叩くと渋々といったようすで戸田くんも他のみんなもペンを動かし始めた。そのようすはまるで小学校の先生と生徒だ。
くすくすと笑いながら私はフライドポテトのお皿に乗っているパセリをつまんだ。みんな、パセリが好きじゃない。だから勝手に食べても怒られない。
相馬くんと違って私はみんなの好みを把握しているのだ。
フフンと胸を張ってテーブルの中央にある調味料置きに手を伸ばそうとして――。
「これだろ」
相馬くんが塩の容器をことりと私の手元に置いた。顔をあげると相馬くんはいつもどおりの無表情で私を見つめていた。
「ありがと」
「うん、お前の好みは覚えてるから」
いつもどおりの淡々とした調子で言って相馬くんは手元の課題に視線を戻した。
「そっか。……ありがと?」
私の方もいつもどおりの調子で言って塩を手に取るとパセリに振りかけた。パセリからこぼれ落ちた塩のつぶが小皿の上で音を立てて跳ねる。
「……」
いやいやいや。
いやいやいやいや――!
かたくて微かな塩が跳ねる音を聞きながら私は唇を引き結んだ。
相手はあの相馬くんだ。深い意味なんてない。何にも考えずに言っているだけだ。そうに決まってる。
「だから……!」
何、ドキドキなんてしてんの、私!?
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