コーヒーにミルクと砂糖二本、パセリに塩。

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「だーかーらー、相馬ぁぁぁーーー!」  大学のカフェテリアでグループ課題を進めつつ小腹を満たしていた私たちは、戸田くんの大声に顔をあげた。びっくり顔がすぐに苦笑いに変わったのは続く言葉の予想がついているからだ。 「唐揚げにレモンかけるなって何回言えばわかるんだよ!」  予想と一言一句(たが)わぬ絶叫を戸田くんがあげた。 「そうだっけ?」  これまた予想と一言一句(たが)わぬセリフを言って相馬くんはいつもどおりの無表情で首を傾げた。  相馬くんの大きな手がつまんでいるのはレモン。すっかり絞りきって後の祭り状態になったレモンだ。 「俺はレモンが苦手なんだって! かけるなら自分のところだけにしろって! 何回目だよ! 何回言えば覚えてくれるんだよ!」 「そんなこと覚えてられん」 「親友の食の好みをそんなことで片付けるな、相馬ぁ!」  お決まりのやりとりにくすくすと笑いながらコーヒーのカップに手を伸ばす。相馬くんがミルクと砂糖二本を私の手元に置いてくれた。 「ありがと」  お礼を言うと相馬くんはいつもどおりの無表情でこくりとうなずいた。 「入学したときから二年生も終わろうかっていう今日まで、このカフェテリアに何回通って、唐揚げとフライドポテトを何回注文したと思う!?」 「知らん」  熱弁をふるう戸田くんを見もしないで相馬くんはさらりと言う。 「何十回も何百回もだよ!」  でも戸田くんもめげない。 「それなのに何十回言っても何百回言っても毎回のように唐揚げにレモンをかけやがる! 俺は! レモンが! 苦手だって言ってんだろ!」 「みんなで頼んだピザ全体にタバスコをかけるのもやめようね、相馬くん」 「焼き鳥の軟骨を勝手に食べるのもやめろ! 俺の好物で、俺が注文したもんだって何回言えばわかるんだ!」  ここぞとばかりに文句を言い出す友人たちの顔をじっと見つめたあと、 「覚えてられん」  相馬くんはいつもどおりの無表情で唐揚げを頬張った。存分にレモンをかけた唐揚げを、だ。 「相馬ぁぁぁーーー! 友達だろ? 二年間、いっしょにグループ課題をやってきた仲だろ!? 覚えてくれよ! 興味持ってくれよ!」  机をバシバシと叩いて絶叫する戸田くんの肩を両隣の男友達がなぐさめるように叩いた。 「そんなんだから彼女ができないんだぞ、相馬!」 「……そんなん」 「そんなんじゃあ、例え彼女ができでも〝私に少しも興味ないのね!〟って言われて、平手食らって、すぐにフラれるぞ!」  ビシッ! と指さす戸田くんと同意するようにうなずく男友達を見て相馬くんは眉間にしわを寄せた。
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