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結局、襖の張替えを終えたのは数時間後。
「疲れてご飯食べる気になれへん~。今日はもうお豆腐とお揚げさんだけでええわ」
「あとはお昼のそうめんがあるからそれにしよか。―あ、しもた」
冷蔵庫を開けたお母さんが、口に手を当てた。
「どしたん?」
「お揚げさん買うの忘れてた。ちょおっと買ってくるわ」
財布とスマホを手に出かけようとしたのを、私は止めた。
「ええよ。私が行く。いつもの山本屋さんやろ」
北野天満宮近くにある豆腐屋は我が家のお気に入り。
あそこのお揚げはおばあちゃんもお母さんも、ついでに言えば私の大好物。
重い腰を上げてスマホを手に取ると、財布を受け取って玄関へと向かった。
昼前までは晴れ間を覗かせていた空は、今は蓋をしたような曇天が広がっていた。
ふと、猫の鳴き声が聞こえて振り返る。
足元にいたのは、ひとつき前より少し毛が伸びたぶち。
「せんー?せん、ほらおいで!」
せんはうちで飼ってる年寄り猫。猫好きだったおばあちゃんが昔どこかからひろってきてそのまま住み着いてしまった。
お母さんは取り立てて動物好きいうわけやあれへんけど、うちで飼うのを黙認してる。
せんはこっちに来ると、おとなしく撫でられていた。
せんが来ると大抵、雨が降るというのがいつの間にか我が家に定着したルール。
この前四条に行った時にセールで買った折りたたみ傘を手に持って、北野への道を急いだ。
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