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「配達終わったで―お母ちゃん。お客さん」
「おかえり。―あら沙羅ちゃん。いらっしゃい」
「こんにちは」
奥から前掛けで手を拭きながら、お兄ちゃんのお母さんがそう挨拶した。
「すんません、雨が降ったからここまで乗せてもらって」
「―急に降ってきたしな。置屋のお母さんらも舞妓ちゃんは大丈夫やろかって言うたはったえ」
「さっきそこの町家で往生してはりました」
「そらあかんな」
「今頃はもううちわ、出来上がってる頃やろな。毎年この時期に出来上がる頃やろし」
うちわ、というのは芸舞妓さんが夏の挨拶の時に配る京丸うちわのこと。
京都の料理屋の壁にかけてある、名前付きの丸いうちわがあれだ。
「そやなあ。まだあった?娑羅さん姉さんのうちわ」
「いや、見てへんかったけど、まだあったと思うえ」
「なんやのあんた。肝心なところやないの。あんな、沙羅ちゃん。亡くなったおばあちゃんは舞妓ちゃんの頃から三味線も踊りもみんな人一倍上手で努力家やってんで。子どもにも孫にも恵まれて、ほんまに果報者やってんなあ」
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