呪魂

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呪魂

 ほんの(わず)かな,一筋の光さえ届かない漆黒の闇の奥深く,遥か昔から世界中の至るところでこの世を彷徨(さまよ)人間(ひと)の悪意から生まれる(ごう)が無尽に垂れ流され続けている。  闇世で生まれたは人の目には捉えられないほど小さく,蠢きながら不快な異臭に包まれ,音もなく複雑に絡み合うようにして暗闇の中をゆっくりと時間をかけて流れていく。  弱々しく簡単に消えてなくなりそうな,頼りないその細い流れは,ゆっくりと暗闇の中で静かに音もなく堕ちてゆく。  細い流れは小川のような筋をつくり,コロコロと転がり,グネグネと絡み合いながら少しずつ形を変えてゆく。  小川は徐々に大きな流れになり,一つの大きな塊に飲み込まれると,やがてソレには微かな意思が芽生えはじめる。  人間(ひと)の悪意から生まれる(ごう)が塊になると,誰も気がつないほど小さな「悪意」という意思が湧き出してくる。やがてその悪意が発する異臭は動物が察知するほど強くなり,悪意のなかから「殺意」が芽生える。  その微かな殺意は流れとともに黒く(けが)れ,どこまでも暗く(よど)みゆっくりとどこまでも沈み,真っ黒な溜まりの底で増殖してゆく。  暗闇の中で増長された殺意はより大きな悪意と混ざり合い穢れた精神(こころ)をもち,明確な意思をもつことで「呪魂」と呼ばれ,ゆっくりと時間をかけてひどく危険なモノへと姿を変えてゆく。  小さな呪魂は流れのなかで古い年月をかけて大きくなった呪魂と混ざり合うと,苦しそうに悶えながら成長し,殺意の中から怒りや憎しみといった感情を増長させ闇の中で(うごめ)いてゆく。  大きく成長した呪魂はさらに大きな流れに合流し,どうしようもないほど増幅され,さらに大きな川へと吐き出されていく。  数えきれないほどの呪魂を飲み込んだ穢れた川は海へとつながり,そのまま呪魂は広く深い海へと消えてゆく。  海の中ではさまざまな怨み,辛みを纏った呪魂が彷徨い,光の届かない深い深い底へと沈んでゆく。そうやってどこまでも深い海の底で,歪んだ人の怨嗟(えんさ)が沈澱する。  そうして「呪魂」が時間をかけて静かに海底に降り積もり溜まってゆく。
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