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雪平葵
少しの間二人っきりになった。
「岩田君、ほんとうにゴメンね。私、お世辞でなく、岩田君は本当に素敵な人だと思う」
そう雪平は言い、僕に色んな質問をしてきた。
僕は、以前電話で「なぜ雪平葵のファンになったのか?」を話したが、もう少し詳しく話してほしいと雪平から言われた。
僕は、以前伝えた、友達から誘われたライブの話に加え、十年前に、一日だけの付き合いだが、気になる女の子がいて、その子の面影が、雪平葵の姿に重なったことなどを話した。
すると、雪平はその話に興味を持ち、もう少し詳しく話してほしいと僕に言った。
僕は、キャンプに行ってから、上流の増水に会い、そこにいた女の子と一緒に中州に閉じ込められたこと、何とか間に合い父に助けれら、その後、その子の家族と食事を取ったことを細かに話した。
あまりに雪平が興味をもち、質問をしてくるので、僕は、あの時の女の子が中州で、
「雄くん、私たちが助かったら、いつか、私、雄くんのお嫁さんになりたい」
と言ったことを話した。
僕は、照れながら雪平の顔をのぞいた。
その瞬間だった。
雪平の目から大粒の涙が落ちた。
そして、僕に言った。
「岩田さん、いや、雄くん、その女の子は、私」
「十年前に、雄くんのお嫁さんになりたいって言ったのは私」
「雄くんに励ましてもらったのは私」
「あの時、本当に心細くて、雄くんが横にいてくれて、本当にうれしかった」
「ずっと、ずっと、雄くんのことが忘れられなかった」
雪平の目から、なおも大粒の涙が落ちている。
僕もうれしくて泣きそうになった。
ものすごい偶然の再会に、心から泣きそうになった。
その瞬間だった。
僕は、ハッとした。
僕は、全てを疑い、雪平に聞いた。
「ドッキリ、まだ、続いているんですか?」
(すごい、壮大なドッキリだったな…)
僕の肩から力が抜けた。
すると、雪平は、首を大きく横に振って言った。
「ドッキリじゃないよ」
「私の本名は、白石美月。私はあの時の美月」
「雄くんのお嫁さんになりたいって言った、美月だよ」
スタッフが遠くに見える中、雪平葵、いや白石美月は、目に涙を浮かべ、僕の首に手をまわした。同時に、僕は美月を抱き寄せた。
十年前に止まっていた二人の時間が、今日から新たに進んで行くような気がした。
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