魔法学校対抗戦・前日弾

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魔法学校対抗戦・前日弾

この世界には魔法が存在し、魔力を使役する魔法使いと魔女によって世界が作られている。 世界を構成する大陸の一つ、ホーライ大陸は4つの国で形成されていた。 現在より13年前、大陸内で起きた歴史上最大の戦争が幕を閉じ、4つの国々は平和の象徴フォルフォセティ大聖堂を建設。 以降ホーライ大陸の国々は共に手を取り平和を維持していた。 しかし現在、長い年月をかけて築き上げられた平和に亀裂が生じ始めていた。 かつてこの世に存在し、何者かに殺された、月の魔女の復活によって。 *** ホーライ大陸を形成する国のひとつであるアストイヤ国。 アストイア国のとある新聞社に勤める新聞記者タラム・カーターの生活は魔法学校対抗戦をきっかけに大きく人生が変わることとなる。 魔法学校対抗戦とはホーライ大陸の4つの国にそれぞれ存在する学校の学生たちが、魔法で競い合う行事となっている。 17歳から15歳までの最も優秀な生徒が選手として各校から30人ずつ選ばれ、魔力・知力・体力など若き魔法使いたちが己の全ての力を使って競い合う。 3年に1度開催されるこの対抗戦は以前までハニエル王国のオエナンサ魔法学校、王国・タンザゴルビのグランナット魔法学校、アストイヤ国のカストリア魔法学校の3校で行っていた行事であったが、今年は歴史上初の旭陽(シィーヤン)国の鬼騎(グイチー)魔法学校が参戦した。 戦争で唯一の敵国であった旭陽国が参戦することとなり、世界的に話題となった今回の対抗戦に、新人記者のタラムは取材をするようにと上司により命じられた。 対抗戦は現在、開幕式から始まり、第一試合が終了したところだった。 将来有望な選手たちが闘志を燃やす姿を写真に収めていくタラムの瞳は、選手たちとは対照的に鬱々としていた。 (史上初の対抗戦と言っても、所詮子供の行事だしな……) 本当は大きな事件や世間を揺るがすような出来事を取材したいタラムにとって正直退屈な仕事だった。 それでも彼は上司に言われたとおり、カメラのシャッターを切っていく。 対抗戦の参加校にはそれぞれ特徴があり、そして各校には選手たちを束ねる最も優秀な代表選手がいた。 オエナンサ魔法学校は名だたる貴族の子女のみが通うことが許された学校で、気品ある紳士淑女を育てている。 彼らの制服は白と青を基調とした騎士のような服装であり、魔法も杖ではなく細剣(レイピア)を使っていた。 彼らの代表となるのは代表生徒の中で唯一の女性であるセシル・ソルエージュだった。 白銀の長髪を束ね、美しい碧眼を持つセシルは誰よりも気高い志を持つ。 (そして頭脳明晰で戦闘も強い。何よりとびきりの美人……。) グランナット魔法学校は魔力の強さよりも身体能力の高さを求められる。 ホーライ大陸内で活躍するスポーツ選手のほとんどはグランナットの卒業生であり、王国・タンザゴルビの国柄、女性でも長身で体格に恵まれた者が多い。 競技と呼ばれるものに情熱を燃やしやすく、過去の対抗戦では最も優勝した回数が多い。 彼らの代表となるのはビクター・バックマン。 選手たちの中で最も長身である彼は将来スポーツ界での活躍を期待されている。 (脳筋だらけのグランナットでは珍しく冷静。けれど第一試合で右腕が動けない状態にある。……そんなハンデがあっても彼が負ける気しないけど。) カストリア魔法学校は他校に比べ最も温厚な学校である。 入学制限をかける傾向がある他校の中で、カストリアは望めば誰でも学ぶ場所を提供する。 その特色ゆえに最も学べることが多く、生徒たちは自分の興味がある科目を選択できる。 彼らの代表となるのはレオナルド・シュタット。 栗毛に朱色の瞳を持つ彼はまさにカストリアの体現するかのように穏やかで物腰が柔らかく人望も最も厚い人物である。 (そしてこいつもまたイケメン……けど、第一試合を見るとただの温和なお坊ちゃんじゃないな。) そして今年初参戦になる鬼騎魔法学校。 彼らの体術と魔法を組み合わせた戦法は強豪グランナットを翻弄し、初めての試合にして、グランナットと同着に躍り出た。 何よりも唯一の敗戦国である彼らの思想は、戦後今になっても受け継がれており、勝利のためなら手段も選ばず犠牲も厭わない、そして自らの命すら差し出す度胸を誰もが秘めていた。 全世界を震撼させた彼らを束ねるのは代表である(ソン)浩然(ハオラン)。 黒髪を襟足で短く束ね、夜空のような黒い瞳はどこまでも冷たく、ミステリアスな印象を与える。 背が高くひょろりとした細い体型をしているのに、浩然からは一切の隙が感じられなかった。 (……こいつだけなんだよな。選手たちの中で唯一まともに写真取らせてくれないの。) 他の生徒たちは対抗戦中に写真に収めているが、浩然だけがこちらの視線に気づいているかのように、シャッターを切った瞬間に消えている。 今も遠くからタラムがファインダー越しに浩然を捉えるが、一瞬浩然と目が合った気がすると指が躊躇ってしまい、その隙にいなくなってしまう。 まるでこちらのことを監視されているような感覚に、タラムは体を震わせた。 (……そして、今回の対抗戦で隠れた話題の人物は、と……。) タラムは対抗戦中に撮った写真をめくっていく。 そしてある人物を見つけると、ある1枚の写真を高く掲げ、まじまじと見た。 そこには白銀の髪と碧眼を持つ、1人の少女が写っており、白銀の髪が太陽の光で透けて見えた。 (ルネッタ・リンフォード……。なぜかいつも中心にいる少女……。) まだ経験は浅いが、タラムの中にある鈍くない新聞記者の勘がその少女に対して何かを感じていた。 この少女が自分の人生を大きく変え、そして終わらせることをタラムはまだ知らない。
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