魔法学校対抗戦・第二試合

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魔法学校対抗戦・第二試合

華やかなダンスパーティーから一夜明け、対抗戦第二試合当日の朝。 第二試合も出場選手として選ばれた小焔(シャオエン)は昨日と同じように鬼騎(グイチー)魔法学校指定の運動着を着て会場に向かうところだった。 ()・小焔は鬼騎魔法学校から歴史上初の留学生としてカストリア魔法学校に通う15歳の少年だった。 今回の対抗戦では始めはカストリアの選手として選ばれたが、鬼騎が急遽参戦するにあたり、小焔も鬼騎の選手として出場することとなる。 対抗戦の最中は競技場内に用意された鬼騎魔法学校選手用の宿舎に泊まるよう代表である浩然(ハオラン)に言われていたが、小焔は今、カストリア魔法学校の校内にいて、さらに青ざめた顔をしてノロノロと歩いている。 昨夜、小焔が寝たのは宿舎でも寮にある自分の部屋でもなくカストリア魔法学校の廊下だった。 仲が悪い同級生のノア・グランツと訳あって酒を飲んだあと、初めて口にしたアルコールは小焔の予想を上回るほど体中をめぐり、そのまま廊下でノアと一緒に寝てしまった。 朝になり、ノアのことを探しにきたノアの取り巻きたちによって起こされ、さらに彼らによって酒を隠されたので教師にバレることはなかったが、起きてからずっと体が重かった。 体を引きずるようにして競技場へとつながる空間移動式(テレポート)・カーテンへ向かおうとすると、入り口付近にルネッタを見つけた。 ルネッタも小焔に気付き手を振ってくる姿を見て、自分を待ってたのだとわかると、小焔の心臓がドキリと跳ねた。 おかげでだるい体が緊張で少しだけ背筋が伸びる。 「おはよう、これから競技場に行くの?」 「ああ、うん……ルネッタは?」 「私はあとから観に行くね。昨日の試合で動物たちの役割が終わったからみんなを家に帰す手伝いをするの。ドラゴンは……昨日いろいろあったからまだ森で預かることになってるけど。」 対抗戦では調教師(テイマー)としてサポーターに選ばれていたルネッタの役割は第一試合で終わっていた。 対抗戦が始まるまでずっと世話をしてきた動物たちを見送ると言うルネッタはどこか寂しそうだった。 「そうか……、あのさ、」 「うん?」 小焔はルネッタを昨日傷つけたことを謝ろうとした。 自分の愚かさで無暗に心無い言葉でルネッタに悲しい想いをさせてしまったことをずっと気にしていた。 「あ……」 (泣いた痕……) 小焔は伝えたい言葉が息と共に喉の奥の方へ戻っていったのがわかった。 ルネッタのわずかに腫れた瞼と、それ以上にとても晴れやかな表情を見ていると言葉が喉に張り付いて出てこなかった。 ルネッタのその表情から、自分の言ったことなどすでに気にしていないどころか、覚えていなさそうだと察すると、小焔の胸がチクリと痛む。 ルネッタがなぜそんな表情をしているのか理由を知っている小焔にはその痛みをただ受け入れるしかできなかった。 受け入れることしかできないからこそ、小焔の言葉が詰まってでてこない。 「いや……俺に何かあるのか?」 「あ、うん、昨日ノアと廊下で倒れてたって聞いたから……どこか具合悪いの?」 まさか仲が悪い2人が酒を交わし、そのまま一緒に寝てしまったなど誰も思わなかったらしく、人伝にわたるうちに廊下で倒れていたということになっていた。 未成年者が飲酒をするという小焔とノアも重大な校則違反をした上に、一時でも心を通わせた事実を認めたくなくて、お互いにその噂に合わせていた。 「昨日は疲れてたから、よく覚えてなくて……痛って……」 「どうしたの?」 「いや、頭が……。」 「冬なのに廊下で寝たから風邪引いたのかな……これ、飲んでみて。」 突如キンとした痛みが頭を走り、頭をおさえる小焔にルネッタは心配そうにのぞきこんだ。 明らかに二日酔いからの頭痛だと小焔は思っていたが、風邪だと勘違いしたルネッタは自分の四次元ポシェットから、薬草が入った小瓶を取り出した。 「私が調合した薬。頭痛によく効くの。試合には全力で望んでほしいから。」 ルネッタが小瓶を差し出すと、爽やかなハーブの香りがそっと小焔の鼻をかすめた。 小焔がお礼を言うと、ルネッタはにっこりと微笑む。 「小焔、頑張って!」 ルネッタの明るい声援を聞くと、不思議と小焔の重苦しい体が軽くなった気がした。 小焔は無意識に小瓶を差し出すルネッタの手を覆うように握り、ズイと体を近づけた。 「……もっと、言ってくれないか?」 「ん? うん、頑張って!」 小焔のおねだりにルネッタは一瞬だけ首をひねったが、すぐに受け入れ先ほどと同じ明るさで小焔の要望に応える。 「もう一度。」 「小焔、どうしたの?」 「もっと。」 さすがに困惑するルネッタだったが、小焔はルネッタをまっすぐと見て言った。 その真剣そのものの瞳にルネッタも応えるべく、肺にいっぱい空気を吸い込む。 「頑張れー! 小焔!!」 精一杯の声援を至近距離で浴びた小焔は、あまりの声の大きさに驚いて目を瞬かせたあと、吹き出すように顔を綻ばせる。 「ルネッタのおかげだ。頑張るよ。」 小焔もまた、にっこりと笑いルネッタの頭を撫でた。 そしてカーテンに身をのりだし歪んだ空間へと姿を消す。 小焔を見送ったルネッタは握られた手をそっと見た。 まだ小焔の体温が残っている気がして、自分の手を閉じたり開いたりしてみる。 「……小焔の手、大きくなってた気がする。」
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