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「まったく、あの兄弟と血が繋がっているとは思えないわ。化粧くらいなさればいいのに」 「……仕事柄、不適切ですので」 「爪もこんな風に短く切ってしまって」 「……仕事柄、必要なことですので……」 「ねえ、あなた。どこか具合が悪いんじゃないの? 早退したほうが良いのではなくって?」 「本当にそうですね……」 「あなたがそんな風だと、わたくしも張り合いがないわ。今日はゆっくり休みなさい」  懲りることなくまたもや研究所を訪れていた押せ押せ侍女さんが、実は根は優しいらしいことを知り、私はさらにショックを受けていた。なんてことだろう、いっそどうしようもなく性根が悪いほうがテキトーにあしらいやすく、諦めだってつくのに。  ちなみに化粧をしないこと、爪を伸ばさないことは、薬師として勤める上で大切なことだ。  まず、薬草を取り扱っているから不純物が交じらないように化粧はしないことが望ましい。香水も不適切。薬草は見た目だけではなく、手触りや匂いも重要なのだ。  それから爪は短くするのが鉄則。爪紅は厳禁だ。とはいえ、薬草をすりつぶしているうちに、爪の間が薬草の地味な色に染まってしまうのだが。そして作業中にしょっちゅう手を洗うため、手が荒れやすいことが薬師ならではの悩みだったりする。薬師なのに手荒れがひどいとはこれいかに。  職業婦人としての生き方は私が自分で選んだこと。それなのに、貴婦人然とした彼女を前にして胸が苦しくなってしまうのはどうしてなのか。せっかく会えたカラムさまの顔を見るのも辛い。 「アイリーン、肌荒れに効く軟膏をもらったんだ」 「……私に、ですか」 「こまめに塗るのは作業上難しいだろうから、寝る前にたっぷり使ってみるといい。それだけでだいぶ違ってくるそうだから」 「……ありがとうございます」 「どうしたんだい? どこか具合でも……?」 「本当に、大丈夫ですから!」  普段なら気にならないあかぎれや逆剥けが、とてつもなく恥ずかしかった。彼女のように指の先まで女性らしく気をつけていたなら、カラムさまに好きと伝えてちゃんと失恋できたのだろうか。  我が兄弟に突撃し、そのままナチュラルに回収されていく侍女さんを見送りながら、私は唇を噛み締めた。
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