犬、やめました。【コミカライズ企画進行中】

分からない気持ち

「どうしたの？」

少し距離感を感じるその声に、恐る恐るゆっくり目を開ける。
そこには普通に運転席に座ってエンジンを付けるタカシお兄ちゃんがいた。

あ、れ……。
今、キス、されちゃうかと思ったのに。

呆気(あっけ)にとられた私をチラっと見たタカシお兄ちゃんは、自分側のシートベルトを摘(つま)んでこう言った。

「駄目だよ。シートベルトはちゃんと付けないと」
「シート……ベルト？」

そう言われて自分の体にゆっくりと視線を下ろすと、いつの間にかシートベルトが付けられていた。

「あっ……」
そういう事？
うわぁ……私、めちゃくちゃ勘違いで恥ずかしい子じゃん。

「……ありがとうございます」
私は穴があったら埋まりたい気持ちでお礼を言った。

…………

……

フロントガラスに雨が叩きつけられている。
なのに車内はというと、そんな事を微塵(みじん)も感じさせない程に静かだ。

さすが高級車。
「凄い雨だね。そんな小さな折りたたみ傘で大丈夫？」

「大丈夫です」
さっきの勘違いのショックがまだ残ったままの私は、低いテンションで答える。

「そう、傘貸してあげるのに……
あ、でも貸したら彰にバレちゃうかな」

「何がですか？」
「そうだ、遥ちゃんにお願いがあるんだ」
その言葉になぜか既視感(きしかん)を感じながら首を傾げる。

「お願い、ですか？」