分からない気持ち

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ピピピ…… スマホのアラームが鳴る。 布団から手を出して手探りでスマホのサイドのボタンを押して、アラームを消す。 「……ねむっ」 朝まで働いても、寝るのは正午まで。 これは私の中の絶対的なルール。 『お金をコントロールできる人になる』という人生の目標の為にも、勉強に支障が出ない生活が最優先だから。 重すぎる(まぶた)を無理やり開けて、起きたくないと悲鳴を上げる体にムチを打って起こす。 そして涙が出るくらい大きなアクビを出した後、とりあえず煙草に火をつける。 その後は、だいたいチョコっとだけ牛乳を入れた濃いめの珈琲を飲む。 それがいつもの日課。 全く頭が働かないまま昼イチの煙草を(くわ)え、目に入ったスチールラック内のクラフトカラーのボックスに手を伸ばす。 そのボックスを引き出して、底から厚めの茶封筒を取り出して目の前に持って来て煙を含んだ溜め息をつく。 この封筒の中身は―― 最近何度数えても足りない、ずっと積み立てている学費。 日払いで給料を貰った日は全てこの封筒に入れ、シャーペンで『日付』と『入れた金額』と『合計金額』の3つを記載するようにしている。 そして給料日にまとめて貰う方の給料は、毎月の生活費や白藤家が住むこのマンション代や、自分の娯楽とかに使っている。 この調子で二年程問題なくやってきたのに、ここ最近おかしい。 数字が合わない。 始めは数え間違いや自分の金額の書き間違えだと思った。 でも違うんだって、最近気付いてしまった。 それは、この封筒に書いた金額部分だけが消しゴムで消して上書きされたような痕跡(こんせき)が何ヶ所も見つかったから。 ちなみに、消して上書きなんてした覚えは無い。 でも良いのか悪いのか分からないけど、この独特な丸い筆跡を見ると……そんな事をしたのは誰かって、瞬時に分かってしまう。 私の頭に浮かんで来てしまった人物像に、思い切り頭を振る。
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