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11.いきなりの紅白戦
集合している輪に加わるとさっそく練習が始まり、まずはランニングからだ。走り出す前に永尾が呆れた顔をして俺の顔を窺っている。
「宅見……いくら彼女だからと言っても初めての部活からイチャつくなよ……」
「いやいや、イチャついてないからーーそれに、東條さんは彼女じゃないから」
即座に反論したが、永尾は納得した様子ではない。俺は大きくため息を吐きながらコートの周りを走りだした。同じスピードで永尾が付いてきている。
「まぁ、どっちでもいいが、宅見の事は頼りにしているからな!」
永尾の誤解は解けていないみたいだがバスケの事に関しては信頼してくれているようだ。少し気恥ずかしくなるが、やはり信頼されるのは嬉しいことだ。
ウオーミングアップが終わるとボールを使った練習に入る。久しぶりにボールを扱うのでなかなか手に馴染まない。パスをもらってもちゃんと掴めなかったり、タイミングが合わなかったりした。
何度か練習を繰り返していると徐々に勘が戻ってきて体が動いてきた。もちろん全盛期にはほど遠いが久しぶりにしては上出来だと感心していた。
練習が始まってニ時間が過ぎようとしていたタイミングでキャプテンが思わぬ事を言い始めた。
「これから一年生対二、三年生で試合をするぞ!」
二、三年の先輩達は歓喜に似た声をあげている。これまで部員が少なかったので試合形式な練習は出来ていなかったはずだ。だからあんなに喜んでいるのだろう。
「う〜ん、どうしようかな……」
永尾が困ったような顔で俺の所にやって来た。阿南達も同じような顔をしてこちらに来ようとしている。予想外の展開でみんな困惑気味だ。すぐに一年生で輪が出来たが、誰かがまとめ役にならないといけない。お互い顔を見合わせているが、まだ様子見といった空気でなかなか話が進んでいかない状況が続いていた。
「まずは……それぞれ得意なポジションを確認しよう」
堪り兼ねた顔で猪口が口を開いた。それからは猪口が中心になり、順にポジションを確認していき、スターティングメンバーを決めた。
「いいのか? 猪口はベンチスタートで」
「あぁ、今いるメンバーからしたら俺はスタメンには入れないよ」
「そんなにあの三人の力量はかなりのものなのか?」
「そうだな、さっきの練習を見てだいたい分かったし、あとはポジションの関係かな」
「そうか……本人がそう言うのなら仕方がないか」
「まぁ、後から出させてもらうよ」
猪口は楽しそうに笑っている。中学時代に何度か対戦したけどここまで冷静に判断するタイプだと思わなかった。あまり俺の周りにはいないタイプなのでこれから頼もしく思えた。
俺達一年生チームの準備が終わりいよいよ試合開始になる前に結奈がひょこっと俺の側に来た。
「あっ、やっぱり最初から出るんだね! ふふふ、楽しみーー!」
「何言ってるんだよ、身内同士の試合なんだからたいしたことない」
「えぇ〜そんな事ないよ、さっそく蒼生くんの勇姿が見れるんだからね」
笑顔いっぱいの結奈の顔を見て俺は心配になる。あまりに興奮しすぎて個人的に応援をしたりしないか不安になった。
「分かってるよな……結奈さんの立場は?」
「もう、分かってるわよ! ちゃんと試合中はマネージャーの仕事をします!」
ちょっと口を尖らせて結奈は頬を膨らませた。さすがにそこはちゃんとわきまえていたみたいだ。
「結奈さんが満足できるかどうか分からないけど、とりあえずは今出来るだけの力は出すからね」
結奈の頭を軽くポンポンとするとムスッとしていた顔がすぐにふやけるようになった。
「うん、分かったよ、えへへーー」
準備が整い試合が始まるようで、機嫌が治った結奈はタイマーのある場所へ足取りも軽く戻っていった。
「……試合前にまたイチャついて、宅見がそんなにチャラい奴だとは思わなかったぞ」
「な、なんだよ、別にイチャついてないからな」
いつの間にか俺の背後に立っていた永尾はまた呆れた顔をしているので、全力で否定をする。だがあまり意味がないみたいで、ため息を吐いて笑みを浮かべたが目は笑っていなかった。
「まぁ、彼女と仲が良いのは分かったから、宅見の今の全力を見せてくれよ、一緒にプレー出来るのは俺も楽しみだったからな」
ちょっとだけふにゃとしていた気持ちがシャキッとしたような感覚になった。結奈以外にも俺の事を期待してくれる人がいるのだと気合いを入れる。
「当たり前だ! 俺だってどこまでいけるか試してみたいが、永尾が期待するところまでいけるどうか分からないぞ」
「……分かった」
やっと永尾が納得いった顔で笑みを浮かべて頷いた。
スタメンで出るのは、PGの山西、SGの山寺、PFの村野とCの永尾そして俺はSFで、この五人が始めての紅白戦のメンバーだ。
入部前に見た練習風景と今日の練習を見て、おそらく個人の力量では俺達一年生に分がありそうな気がする。試合が開始されるとやはり最初にマイボールになったのは一年生チームだった。
(この試合、楽勝じゃないか……)
声には出さなかったが他のメンバーの表情を見た感じ同じ事を考えていそうだった。舐めている訳ではないが余裕すらある雰囲気だ。
だがすぐにそんな空気が一変してしまう。PGの山西がパスの出しどころに迷っている。俺や山寺がパスをもらおうと動いているがいい感じで先輩達のマークが入る。
困った山西がポストになっている永尾にパスを出すがまたここで詰まってしまう。タイマーを見ると時間がなくなってきている。
結局、スリーポイントラインにいる山寺に仕方なくパスをして、時間がないので無理やりシュートを放つが簡単に決まらない。そのまま先輩達のチームにボールが渡ってしまった。
ディフェンスに戻ると今度は先輩達のチームはよく動いてパスが回っている。俺達一年生チームは後手にまわってあたふたしたディフェンスであっさりとシュートを決められてしまう。
(あれ……なんかおかしな展開になっている)
試合が開始してもうすぐ五分が過ぎようとしている。俺の心の声はチーム全員が思っているみたいな雰囲気になってきた。
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