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片手に乳飲み子を抱き、もう片手で幼い息子の手を引いた島妻の姿が揺れている。
大きな赤い花が咲き乱れ、荒い雨を弾いていた。花の中に隠れそうな親子の姿が遠くなる。海は灰色に濁り、雨はまるで容赦がなかった。
そうして、徳之島は遠のいた。
沖永良部島は、藩管轄の島のうち、最南の島である。よほどの罪人が流される場所だ。
二度と復帰は認めないという、国父島津久光の強い意志であろう。それにしても、徳之島に降ろしておきながら、到着して間もないうちに更に南に送るとは。
徹底的に、憎まれているのだ。俺は。
国父から。
あるいは、天が俺を憎んでいるのか。
船で沖永良部まで送り届けてくれる者たちは、皆親切だ。誰もが吉之助に深く同情し、藩主による仕打ちがあまりだと言って、涙をこらえていた。
なにも罪はないというのに。
否、誤解を受けることそれ自体が罪となるのか。
誤解は重罪である。怒りを買うことを恐れなかった、それ自体が重罪である。ならば、国父の怒りを最優先に考え、すべきことをせずにおれば良かったのか。
吉之助には、それができなかった。そういう、人間である。
つまり、吉之助が生きていること自体が、国父にとっては許しがたい重罪なのだろう。
(流刑となっても何ら不思議ではない)
もう、戻ることはできない。最果ての島で命が朽ちるのを待つだけなのだ。
吉之助が沖永良部に送られたのは、奄美大島の島妻が幼い子供を抱え、徳之島まで来た翌日である。
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