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「ビターラビットって?」
直訳すると苦い兎って事か?
なんだか美味しくなさそうだな。
「え、ビターラビットもご存じ無いのですか?」
俺がそう質問すると、彼女はとても驚いた顔をしてから俺の事を訝しんだ目で見つめてきた。
もしかして、その兎ってこの世界じゃメジャーな食材なのだろうか。
ふむ、それは疑われるのも当然か。
もしかしたら現実の世界で言うと、ステーキを知らないのと同じ感覚なのかもしれないな。
俺だったらステーキを知らないなんて人が現れたら嘘だろ?とも思うし、記憶喪失か何か、もしくはステーキを知らない生活をしていたのかなと思うだろう。
「えと、信じてもらえるかは分からないんだけど……俺、いわゆるその、別の世界から来たんだ、的な?」
なんかちょっと異世界人みたいで恥ずかしくて最後の方照れてしまった。
「別の世界……とはどのような?」
そうだよな、信じてもらえないよな。
と半ば諦め半分でいたら、レイラは以外にも興味を示してくれたようだ。
「えっと、どのようなって言うと……、例えば、地面は一面コンクリートで覆われていて、街には人の背よりも何倍も高いビルっていう高層建造物がいくつもあって、車っていう四つのタイヤが付いた便利な乗り物が縦横無尽に走っている世界、かな」
どうだろう伝わっただろうか。
「コンクリートは知っていますが、人の背よりも高いというびる、四つのたいや?が付いたくるまという乗り物は耳にしたことがありませんでした」
俺が心配していたよりかは伝わっていたようだ、良かった。
それどころか、心なしか彼女の目が興味津々といった風に輝いてさえ見える。
「なるほど、であればビターラビットを知らないのも無理はありませんね」
そう言ってレイラは、手にぶらさげて持っていた兎を顔の近くまで持ち上げた。
「これはビターラビットと言う種類の動物です。他にも、ホワイトラビット、ミルクラビットという種類もいて、全部で三種類存在しています。ビターラビットは体が焦げ茶色、ミルクラビットはそれより少し明るい茶色、ホワイトラビットは白色をしています。このビターラビット達はこの世界では一般的な食べ物として知られていて、三種類それぞれに味が違うのも特徴です」
なるほど。
つまり、チョコレートみたいな物か。
ビターチョコ、ミルクチョコ、ホワイトチョコ、的な。
「ちなみに、そのビターラビットのお味はいかほどで?」
俺がそう聞くと、彼女は徐に既に絶命している兎を地面に置くと、素早い手捌きで解体し始めた。
その手際たるやまさに職人。
綺麗に毛皮と肉で分けた後、その中の肉の一つを取って、俺に差し出す。
「食べてみますか?血抜きはしてありますよ」
と。
え。
このままで?
え、調理とかしないの?
いやまさかな。
人間が生肉を食べる危険性は嫌と言う程知っている。
俺の世界では常識にも等しい事だが……。
「あ、いや……」
俺がその差し出された肉を見てどうするべきか逡巡していると、彼女は突如それをパクリと食いちぎった。
俺の目の前で。
そして、血の付いた口でニッコリと笑い、
「やっぱり取れたてのお肉は新鮮で美味しいですよね、味は、少しほろ苦い、かな?」
と言って首を傾けた。
俺はその姿に絶句した。
忍者装束みたいな恰好の美人な女の子が、生肉を食ったのだ。
自分の目の前で、なんのためらいもなく。
「お、お、お、お、お、」
俺は、全身をプルプルと震わせた。
いくら異世界だからと言って、いくら文化が違うかもしれないと言ってもさすがにこれは無理が過ぎる。
「女の子がそんなはしたない事しちゃいけません!!!!!!」
俺は、真っ赤になりながらもレイラに向けて思いっきり怒鳴った。
俺のその魂からの怒鳴り声で、森の中にいたであろう鳥がビックリして飛び立つ音が聞こえたが、それどころでは無かったのだ。
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