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志信に、愛されてる。
でもオレは、そんな突然発覚した両想いにびびってしまって、悪あがきを始める。
「だって一緒に住んでたし、いっつも打ち上げの現場に理香さん連れてきてたし」
「昭彦が彼女は不安定な状態だからしっかり見とけって言うから、仕方ねーだろ」
「それに、理香さんをこの町に連れてきた理由も、嘘ついてたし」
それは、昭兄が理香との交際をオレに内緒にしていたため、本当のことを言えない志信は嘘をつくしかなかったのだとわかっていた。
「理香を連れてきたのは、おまえに焼きもちやかすため、ってやつ?」
「そうだよ」
「で、夏生はやっぱあのとき、理香に焼きもちやいてたわけ?」
「そ、れは…………」
言い返そうと意気込んだけど言葉は続かない。
もともと暗い性格だけど、今年の夏のオレはいつにもまして陰気で後ろ向きで疑り深かった。
それは、志信がかわいい女の子なんか連れてきたからだ。
焼きもちをやかなかった、なんて大それた嘘はいくらなんでもつけない。
「なあ、言って? 焼きもちやいた?」
「言いたくない」
絶対言わない。
「昨日、誰のこと考えながら、ひとりでしてたの?」
「最低、いやだもう」
志信の前から逃げようとすると、ふわっと体を抱きしめられる。
「離して、よ」
「むくれんなよ。いじわる言って悪かったって」
そう言って顔をのぞきこんでくる。
サルみたいに真っ赤に染まってるはずの顔を見ても志信が笑わないでいてくれたから、オレは抵抗しないで目の前の真摯な視線を受けとめた。
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