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「また髪に綿つけてんぞ」
前を歩いていた志信が突然、振り返って言った。
顔より大きな綿菓子を食べるのが、オレは昔から下手だった。
近づいてきた志信はオレの頭を両手でがしっとつかんで髪についた綿菓子を唇で舐めとると、何事もなかったようにまたさきを歩きだした。
そして驚きで固まってしまっているオレを無視して、前方で文句を垂れる。
「うえー、甘すぎ。相変わらずよく食えるな、こんな砂糖のかたまり」
そっちこそ、相変わらず人の髪についた食べ物をよく食べられるな、と思いつつ、神社の鳥居をくぐった志信のあとを無言で追う。
志信はいつも、なんの躊躇もなく触れてくる。
肩を組んだり耳や頬を引っぱったり、ひどいときは腰に腕を回して持ちあげたり。
それはずっと昔からのことで、子どものころはそんなふうにじゃれ合っていても変じゃないのかもしれないけれど、いまのオレはもう十九歳で、世間でほぼ大人って認められているような年齢の社会人だ。
子どもじゃない二人がこんなことをするのは、やっぱりちょっとおかしい。
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