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志信は一年のうちの会っていない十一か月のあいだ、オレの時間が止まっていて、成長してないと思ってるのだろう。
だからたぶん、志信の中のオレはまだ十五歳くらい。
大好きな綿菓子やりんご飴を与えればホイホイついてくると思われてる。
触れられるたびにオレがどんな気持ちでいるのかも、甘いものにつられたからついてきたんじゃないことも、この男は知らない。
「昭兄は、いつごろ来るの?」
本殿前の階段に腰かけた志信に尋ねる。
何日か前に昭兄から、今年の帰省は盆の母さんの墓参りに間に合わないかもしれない、というメッセージが届いていた。
「さあ」
「ひとりで、東京で、なにしてるの?」
「知らね」
「連絡とってないの? 毎年一緒に帰ってきてたのに」
昭兄と志信は同級生という以外共通点がないのに、昔からずっと仲が良かった。
優しくてのんびりしている昭兄はめったに怒らず、眠っているとき以外はほとんど笑顔の人だ。そんな聖人君子のような昭兄が、なぜか悪魔の志信といつもセットで行動していた。
長身でかっこいい二人は人目を惹き、周りからは王子様と仏様、というふざけた名前で呼ばれていた。
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