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「俺にはおかえり、のひとこともないわけ?」
会って早々、昭兄のことばかり口にするオレに、志信がこれ見よがしにため息をつく。
オレは志信を前にすると、思ってることをうまく伝えられない。
そんなつもりはなくても、口をひらけばいつもかわいくないことばかり言ってしまう。
おかえりって、本当は顔を見た瞬間からいつ言おうかとずっと考えていて、でもいまじゃないんじゃないかとか、もう遅いんじゃないかとかぐるぐるしてたら、完全にタイミングを逃してしまっていた。
手持ちぶさたで、食べ終えた綿菓子の割り箸を手の中でもてあそんでいたら、突然立ち上がった志信が目の前にやってくるので、驚いて箸を落としてしまった。
見下ろしてくる強いまなざしに引き寄せられそうになって、そろそろと怯えながらうつむく。
「そんなに昭彦が好き?」
指先であごをすくわれて、うつむいたばかりの赤い顔がむりやり上向かされた。
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