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今朝、東京から到着したばかりという彼女は、志信に紹介されて地元民たちとフランクに挨拶を交わし、『休暇をとってきたのでしばらくお世話になります』と言った。衣服に使われている布が極端に少なく、蚊が喜んで寄ってきそうな格好をしていた。
「部屋が空いてるから、しばらくうちで面倒みるわ」
志信がそんなわけのわからないことを言ったので、大スクープの到来とばかりに、田舎のリポーターたちは志信と理香のとり囲み取材を始めた。
志信のほうは、カレー作りというべつの仕事が待っている主婦たちに解放されたが、理香はまだ楽しそうに田舎の若者との交流をはかっている。
そんな中、オレはひとり黙々と肉を焼きまくっては、空いた皿に配りまくっていた。
網に肉を乗せてはひっくり返し、皿に移動させ、空いたスペースでまた肉を焼くという単調な作業の繰り返し。
しかし、とうとうタレにつけこまれた大量の生肉も底をつく。
仕事を失った途端、考えてしまうことはひとつしかないから、それを避けるため、オレは軍手とトングをとなりの酔っぱらったおじさんに手渡して、川上に向かって歩きだした。
「なっちゃん、どこいくの?」
「冷やしてるすいか、とってくる」
返事をすると、尋ねた主婦が、働き者だねぇ、と感心した。
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