194人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
大きな岩と縄で繋がれた桶が、川にぷかぷか浮いている。
桶の中には、上流の水で冷やされた小玉スイカが三つ。岩を縛る縄を解いていると、背後から声をかけられた。
「ねえ、ちょっとー」
ヒールの高いミュールで、でこぼこの岩場を登ってくる理香を見つけて背筋が凍る。
「ちょっと、なにして。危ないから――」
「平気。むかしは木登り得意だったんだから」
来ないで、と言おうとしたら、理香が腰に手を当ててオレの言葉をさえぎった。
しぶしぶ下って手を差しだすと、驚いた顔をした理香が手を伸ばしてきた。
川から桶を引き上げていると、岩に腰かけてしばらくだまっていた理香が口をひらく。
「あたしのこと、覚えてる?」
振り返るとこっちをじっと見つめる目と目が合った。
ショートカットがよく似合うたまご型の輪郭にくりっとした大きな目、細く長い脚が小学生のころと変わっていない。
忘れるわけがなかった。
最初のコメントを投稿しよう!