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「覚えてます」
「ふーん。夏生くんってさ、まだお兄ちゃん命なんでしょ? 志信がいつも言ってる」
「いつも……」
いつも言ってるってことは、いまでも志信と頻繁に連絡を取り合ってるってことだ。
理香の転校の際に、二人は連絡先を交換し合っていたのだろう。
志信が東京に越してからは距離が一気に縮まり、さらに関係が深まったのかもしれない。
当時は見られなかった三角関係の結末。
理香は昭兄でなく志信を選んだ。
モデルや看護師や花屋の娘と付き合ってるというのは、志信の言うとおり根も葉もないウワサで、本当の恋人は小西理香というアクセサリーショップの店員。
だっていくら部屋が空いてるからって、ひとつ屋根の下に恋人でもない若い男女が二人、一か月も一緒に生活するなんてありえない。
住むには不便だけど休暇を楽しむにはちょうどいい片田舎の別荘に、志信は恋人を招待して愉快な一か月を過ごそうという魂胆なのだ。
「夏生くんって、本物のブラコンなの?」
ひとり勝手に妄想を膨らませてムカムカをためこんでるときに、理香が薄い眉をひそめて軽蔑の目を向けてくる。
「なんですか、それ」
「だってさ、十九にもなってお兄ちゃんが大好きって、なんかやばくない? 変だよ、絶対おかしいって。ほかに恋人とか作って気を紛らわしなよ。いいかげんお兄ちゃん離れしたほうがいいよ」
いったい志信は理香に、オレのことをどんなふうに伝えているのか。
昭彦の弟は、兄偏愛症の異常性癖者とでも言ってるとしか思えない。
心の中のムカムカがさらに増してゆく。
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