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 来るはずだった優しい兄の代わりにやってきたのは、二度と会いたくなかった都会美人。  オレは彼女からのありがた迷惑な忠告を、きっぱりとはねのけた。 「やばくてもべつにいいです。ほっといてください」  これ以上会話を続けても、ムカムカがつのるだけでいいことなんてない。  そう判断してオレが桶を持ちあげようとしたら、理香がその中のスイカをサッとひとつ取った。  なにをするのかと思っていると、ラグビーボール型のスイカを川に向かってぽーんと放り投げる。 「わあっ!」  岩の表面にぶつかったスイカは割れることなく水流に乗って、下流へ流れていった。 「なにしてるんですか!」 「あたし、昔から夏生くんのこと嫌いだったのよね」  どうやら自分と同じく理香のほうもオレのことをよく思っていなかったらしい。  突飛な行動と突然の告白にあ然としていると、下からおーい、というのん気な声が聞こえてきた。 「いまスイカ流れてったけど、なにあれ」  こっちに向かってくる志信を見つけると、理香はすぐさま駆け寄っていった。 「夏生くんが川に落としちゃったんだよ」  とんでもない嘘を平然とつく理香に、オレは驚きの表情を歪めて下唇を噛んだ。 「そうなのか?」  告げ口なんてプライドが許さないから、オレは近づいてきた志信にみにくく歪んだ顔を見られないよう、うつむいた。  いつになく優しい感触のする手のひらが、髪に触れた。  直後、オレはその手を思いきり振り払った。 「夏生!」  にらみつけてくる理香の横を素通りすると、背後の二人を振り返らず、オレはスイカの桶を抱えてその場を立ち去った。
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