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 自宅の縁側に寝そべって棒アイスを食べてると、玄関のほうからオレを呼ぶ声が聞こえてくる。  棒の頭が見えてきても『当』の字が出てこないことにがっかりしていると、志信が勝手に庭を伝って縁側にやってきた。 「いるなら返事しろよ」  やっぱりハズレだ。  のっぺらぼうのアイスの棒を和室内のくずいれに投げ入れた。 「朝からアイスかよ。おまえ飯食ってんのか? なんか痩せたんじゃねーの?」  真上から見下ろしてくる心配そうな志信の顔をひとにらみして、勢いよく起き上がる。  オレが痩せたのは、確実に誰かさんが連れてきた仕事の邪魔ばかりする女の子のおかげだ。  彼女と対面してると、心労がたまって食欲は落ちるいっぽう。  ものを噛む気力すら減少しているいま、とけて消化されるアイスクリームはありがたいカロリー供給源なのだ。放っておいてほしい。  用意しておいたリュックを背負って歩きだすと、うしろから志信がついてくる。 「いい天気だな」  背後からののんきな声に空を見上げてみる。  のっぺりした青空を背景に、柔らかそうな雲が形を変えながらゆっくり風に運ばれていた。
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