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「お、っと」
さっと振り返ると、志信は驚いて一歩後ずさった。
志信に聞きたいことは山ほどある。
ただそれを聞いたところで志信を困らせるだけだから、言わなかっただけ。
でもそこまで言うなら、聞いてやる。
「あの人って、いつ帰るの?」
オレの心の中のどす黒い感情を受けとめて、さんざん困り果てればいい。
「理香のこと?」
志信の口からその名前を聞くだけでもう、胸がはり裂けそうになってるオレの気持ちなんて知りもしないくせに。
「さあ、まだいるんじゃねーの?」
「なんで連れて来たの?」
苛立ちを力にして強気で言葉を放ってみたけど、出てきた声は情けないほど震えていた。
女の子の理香に強く言えないからって、オレは志信にやつあたりしていた。
よくないことだと自覚していながらも、たまったストレスを解消できない苛立ちは、無意識のうちに志信に向いてしまう。
嫉妬にまみれたオレの本音を聞いて、きっと志信は悲しい思いをするだろう。
連れてきた恋人が幼なじみに歓迎されていないと知って、このあとの休暇を心から楽しめないかもしれない。
うつむけた顔を上げられないでじっと地面の土を見ていると、志信があっけらかんとおかしなことを言う。
「夏生が俺に焼きもちやくかと思ってさ」
「は?」
咄嗟に顔を上げる。
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