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顔色も変わらないし目もしっかりしてるからそんなふうには見えないが、言動がおかしいから志信はたぶん酔っぱらってる。
「してくんねーと、帰んねーからな俺」
やっぱりおかしい。
空っぽになったアルミ缶を手でへこませて、志信は畳に寝ころがった。
自分には母性なんて備わっていないのに、甘える志信がかわいいとか思ってしまう。
器用で、世渡り上手で、俺様で、王子様の志信。
町を離れてもウワサ話が絶えないのは、それだけ注目を浴びてるあかし。
傍若無人なのは見せかけで、実はいつも人を気づかってる。
本当はすごく優しいからみんなに好かれるんだって、オレはちゃんと気づいてる。
誰もが惹かれる王子様が、オレの家の畳に転がってる。口をとがらせてこっちを見上げながら立ってるオレの手をぐいぐい引っぱる。
「しろよほらー」
普段とのギャップに、オレはもうメロメロだった。
手を引かれてひざまずき、そのまま正座したオレの太ももを枕にして志信が寝そべる。
酒のせいで体温の高い頭の重みを足に感じて、胸がきゅうっと締めつけられた。
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